学校の働き方改革「10の提言と50の具体策」

持続可能な学校をつくるための具体的な提案

【ポストコロナの学校改革11】部活動改革への提言

私の所属する富山県職員組合では、去る10月に教職員対象のWEBアンケートを行いました。(1015人から回答)

9月の時間外勤務時間について

【小学校】45時間未満•••39%(昨年12%)、80時間以上•••12%(昨年41%)

【中学校】45時間未満•••24%(昨年10%)、80時間以上•••42%(昨年55%)

 

このように昨年度より改善が見られました。その理由として、

◆コロナによって行事や研修が削減され、業務が減ったこと

◆4月から時間外勤務時間の上限が月45時間以内、年間360時間以内とするよう自治体の規則に位置づけられ、とりくみが始まったこと

が考えられます。ただ、中学校の時間外勤務時間は、なかなか改善がすすみません。理由は部活動であることは明らかです。

例えば、小学校では半数が「土日の業務はない」と答えているのに対して、中学校では「土日の業務はない」が15%に止まります。ポストコロナの学校を考える時に、中学校の教員の長時間労働の原因になっている部活動を改革していくことは避けては通れません。

 

そもそも、部活動はどうしてここまで肥大化してしまったのでしょう。

改めて部活動の建て付けを紐解くと、学習指導要領の中に次の2文があるのみです。

 

“生徒の自主的、自発的な参加により行われる部活動については、スポーツや文化及び科学等に親しませ、学習意欲の向上や責任感、連帯感の涵養等に資するものであり、学校教育の一環として、教育課程との関連が図られるよう留意すること。その際、地域や学校の実態に応じ、地域の人々の協力、社会教育施設や社会教育関係団体等の各種団体との連携などの運営上の工夫を行うようにすること。”

 

「生徒の自主的、自発的な参加により行われる」ということは、そもそもは「野球やりたい人、集まれー」という設計のはずです。

現在の部活動は、すべての運用システムを大人が作り、「自主性、自発性」の微塵もありません。

その背景には

・地域や国の競技力を上げたい競技団体

・手間やお金をかけずにスポーツ・文化振興をしたい地域

・子どもたちを長時間、がんばる環境においておきたい保護者

・子どもたちとのつながりを授業以外でももち、問題行動を抑制したい教員

・スポーツや文化活動で自己実現を成し遂げたい子ども

・指導者として自己実現を成し遂げたい教員

などなど、あらゆる思惑があり、まさにWinーWinーWinーWinーWinーWinのような関係で運用を拡大させていきました。しかし、今となると本当にWinーWinだったのか疑わしい部分も多々あります。

教員には時間外勤務手当を支払わないと定めた通称「給特法」という法律があります。(もしこの法律がなければ40代で年収1000万円を超える中学校教員が多発したはずです。)

勤務時間外は無給(休日の若干の手当のみ)で、長時間労働を余儀なくされ、精神疾患や心疾患、脳疾患で命を落とした教員も1人や2人ではありません。

また子どもたちも、すべての子が部活動をやりたいわけではなく、「二極化」しているのが実態のようです。部活動の強制加入はやめてほしいとの声もネット署名に上がっています。

 

そのような中、去る9月1日に、文部科学省スポーツ庁文化庁から「学校の働き方改革を踏まえた部活動改革について」という通知が発出されました。

趣旨は次の通りです。

◆部活動は必ずしも教師が担う必要のない業務であることを踏まえ、部活動改革の第一歩として、休日に教科指導を行わないことと同様に、休日に教師が部活動の指導に携わる必要がない環境を構築

◆部活動の指導を希望する教師は、引き続き休日に指導を行うことができる仕組みを構築

◆生徒の活動機会を確保するため、休日における地域のスポーツ・文化活動を実施できる環境を整備

一言で言えば、休日の部活動の地域移行です。

 

先の富山県教組のWEBアンケートでは、この地域移行についても質問しました。

 

『現在、2023年度から休日の部活動を外部に委託する方針が文部科学省から出されていますが、賛成・反対のどちらですか。』

○賛成•••59.5%

○どちらかと言えば賛成•••30.4%

○どちらかと言えば反対•••7.6%

○反対•••2.5%

このように賛成派が90%にのぼるという結果になりました。

 

『休日の部活動の指導者を教員と兼務でやってほしいという依頼があった時、あなたの考えはどうですか。』

○競技経験・指導経験のない部活動でもやる•••14.8%

○競技経験・指導経験のある部活動ならやる•••32.2%

○やらない•••49.6%

このように、「やる」派は47%、「やらない」派が50%という結果になりました。

半数の教員が「やる」というのであれば、地域の指導者と合わせて一定程度の指導者の確保は可能のように思えます。

 一刻も早い移行が望まれますが、来年度から試験的に運用され、本格的に実施されるのが2023年からです。2023年から「準備ができたところから始まる」という話であり、準備が進んでいなければいつまでも現状のままです。

いつになるか分からない外部移行をただ待っているその前に、できることがあると私は考えます。

それが次の3つです。

 

◆平日の部活動は教員の勤務時間内で行う

◆短い時間の中でどのように練習するかを子どもたちが考えて決める

◆それ以上にやりたい場合は子どもたちが保護者や関係団体と交渉して環境を作ってもらう

 

(突飛に思えるかもしれませんが、現行の制度に従って導き出した結果です。)

前述のように部活動には、「生徒の自主的、自発的な参加により行われる」という大前提があります。

またそれを指導する教員には、2020年4月から、超過勤務時間を月45時間、年間360時間以内にするよう自治体の規則に位置づけられました。

一方、スポーツ庁文化庁によるいわゆる「部活動ガイドライン」には、平日の練習を2時間程度、休日の練習を3時間程度、週に2回以上の(土日も含めた)休養日を設定するよう示されています。

平日2時間×週4日+休日3時間×週1日=11時間 これが4週で44時間

部活動だけで、月45時間以内という教員の超過勤務の上限はいっぱいになってしまいます。ただ、部活動ガイドラインの月44時間は、教員と子どもたちの健康を守るための「最高値」ですから、それ以下の運用になっても問題はありません。

これらの制度を総合的に見れば、教員の勤務時間終了以降も部活動を行うことの方が無理があると思います。

 

ちなみに、先の富山県教組のアンケートでは、この点についても質問しています。

 

『教員の勤務時間の上限を遵守するために、当面の部活動運営をどのようにすればよいと思いますか(複数回答)』

○平日の部活動は教員の勤務時間内で行う•••59.1%

○すべての部を複数顧問にできる数まで部活動数を減らす•••52.3%

○土日の練習や大会への参加を大幅に減らす•••47.2%

○週2回の休養日をさらに拡大する•••37.4%

○部活動をしながら上限を遵守することは無理なので現状維持•••14.5%

 

複数回答であったため、あまり差の出ない結果になりましたが、最も多かったのは、「平日の部活動は教員の勤務時間内で行う」であり、中学校現場の意識とも乖離はしていないことが伺えます。

 

6時限目の授業が終わって、教員の勤務時間終了までに、生み出せる時間は1日50分程度。ちょうど中学校の授業1コマと同じ時間です。平日週4コマは、国語・数学・英語と同じコマ数になります。土日もやるのであれば国・算・英を上回る時間数です。

そして、その50分をどのように練習するかを「子どもたちが考えて組み立てていくこと」が、本来の「自主的・自発的」なあり方であり、これからの社会を生きていくために強調されなければいけない部分だと思います。教員はそれを支えるのが役割ですので、競技経験は必要ありません。そもそも、コーチではなく顧問=「相談を受けて意見を述べる役割の人」です。今や県外の専門の指導者からリモートで指導を受けることも可能な時代です。

子どもたちが「もっとやりたい」「専門的な指導を受けたい」と言った時に、そこで大人が用意してしまうのではなく、子どもたちが保護者と話し合ったり、指導者を探したり、競技団体に相談したりして、自分たちで環境を作っていくことが、子どもたちの主体性を育みます。他校との練習試合の折衝、大会参加の登録など、中学生であればできることは多々あると思います。また、保護者・地域の当事者意識も生まれ、学校に一極集中する「日本型学校教育」の弊害を緩和することができます。また、そこで部活動をしたい教員が指導者として、「兼業」の形で参加することも制度として可能にしていけばよいです。

子どもたちが主体となって部活動をする場合、まず予想されるのは、やる気が高い子とそうでない子の温度差によるトラブルです。そういう意見の違いを対話で折り合いをつけていく力を今の子どもたちはほぼもっていません。小学校の時から、何か人間関係のトラブルが発生しても大人が仲介して解決に導いてしまうため、解決スキルをもちえないのです。

このような力をつける時は、時間が必要です。子どもたちが帰宅後に1人1台端末を使ってWEB会議を行うような姿を私は期待します。

コロナによる長期休校の中で子どもたちに自ら学ぶ力が育っていないことが明らかになりました。部活動もその例外ではありません。与えて与えて与えて与える教育から大人側がまず、脱皮しなければいけないと思います。(そういう意味では、文部科学省の「休日の部活動の地域移行」も与える教育の延長線上に思えます。)

 

先の県教組のWEBアンケートには、部活動の時間がどんどん少なくなっていくことに対して、やりづらさを感じるという意見もありました。例えば、吹奏楽は、1日50分ではコンクールで演奏できる状態になるのは困難でしょう。議論が必要だと思います。

 

今回も強く自論を展開しましたが、もちろんこれが正解とは思っていませんので、お読みにいただいた方のご意見を頂ければ幸いです。

 

【ポストコロナの学校改革①】学校制度のボトルネック

 

【ポストコロナの学校改革②】平成30年間の学校教育の変質

 

【ポストコロナの学校改革③】学校が抱えた保護者の監督責任

 

【ポストコロナの学校改革④】いじめを防げない学校のボトルネック

 

【ポストコロナの学校改革⑤】学校の働き方改革と子どもの学びの両立を

 

【ポストコロナの学校改革⑥】未来に生きる力を育てる

 

【ポストコロナの学校改革⑦】「自ら学ぶ子ども」をどうやって育てるのか 

 

【ポストコロナの学校改革⑧】脱「日本型学校教育」〜教員の本来業務に集中できる環境を〜

 

【ポストコロナの学校改革⑨】学校は何を教えるところか

 

【ポストコロナの学校改革⑩】幸せをもたらす教育施策

 

 

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