学校の働き方改革「10の提言と50の具体策」

持続可能な学校をつくるための具体的な提案

【ポストコロナの学校改革⑧】脱「日本型学校教育」〜教員の本来業務に集中できる環境を〜

私と同じ「ポストコロナの学校」の姿を考えている組織があります。「中央教育審議会初等中等教育分科会」いわゆる「中教審」です。(私と一緒のレベルで紹介してはいけませんね。失礼しました。)

10月7日に「中間まとめ」が発出されています。


「令和の日本型学校教育」の構築を目指して 〜全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現〜(中間まとめ)


題名にある「令和の日本型学校教育」という言葉に嫌な予感がしながらも若干の期待をもって読み始めました。全72ページ。「まとめ」というより論文です。
そこには「学力格差」「自ら課題を見つけ、それを解決する力」が育てられていないこと、「同調圧力」、「生徒指導上の課題」の増加など、私がここまで主張してきたことと重なる部分も多いのですが、やはり、核心部分では相入れませんでした。


特に、「令和の日本型学校教育」の定義(P5、P18)に驚かされました。


①学習機会と学力の保障
②社会の形成者としての全人的な発達・成長の保障
③安心・安全な居場所・セーフティネットとしての身体的、精神的な健康の保障


従来型の「日本型学校教育」の定義は、①と②だけであったのに、③が付加されています。表記上は「再認識された」、つまり元々あったという口ぶりですが、明らかに付加されています。
この記述のすぐ下(同じP18)には、「学校現場に対して新しい業務を次から次へと付加するという姿勢であってはならない」と書いてあり、これほど見事な「二枚舌」を行政文書で見ることはそうないでしょう。


この③が付加されたのは、コロナを通して「保護者が仕事に行く間、子どもたちを預かる機能」「すべての子どもに昼食を与える機能」「虐待する親から一定時間引き離す機能」などが学校にあったことが明らかになったからです。


ここで示された「日本型学校教育」の強化は非常に危険です。
なぜなら機能を一極集中させることは、センターがダウンした時に、すべての機能が停止するからです。私たちはコロナでその危うさを学んだはずではないでしょうか。
まず、学校に教育機能を集中させていたために、コロナで子どもの学習が停止してしまいました。
もしも、普段から保護者に一定程度の家庭学習の責任と役割が与えられていたら、コロナ下でも子どもの学習がすすんだかもしれません。
また長期休業の間、虐待を受けている子の安否が危惧されました。これも学校の力ではどうにもできませんでした。電話で声を聞くのが精一杯です。
政府は子どもの貧困対策として学校を「プラットフォーム」とする大綱を2014年に掲げていますが、コロナ下では当然これも機能しませんでした。


つまり、コロナを契機に私たちが考えなければいけないのは、学校の機能が停止しても子どもたちを守り育てることのできるリスク分散をした環境です。


そもそも、これからの時代、学校への一極集中自体が不可能になっていきます。
理由は、「一人一台端末」が今年の冬にも全国の小中学校で実現するからです。

まず今年度内に、不登校の子どもたちや入院中の子どもたちへの授業配信が始まります。これは、授業をする教員の前にコンピュータやタブレットを置き、テレビ電話でつなぐだけで瞬時に成立します。すでに出席の要件として認められていますし、逆に、これが始まらなかったら学校が学びの保障を怠っているという大問題です。

次に起こるのが、「我慢して学校に行っていた」子らが、家庭での学習を希望するという事態です。特に、勉強はしたいけれど、同調圧力が苦手な子どもたちなどが学校を離れる可能性があります。
荒れが激しい教室では、落ち着いて勉強したい子が、家庭での学習を希望するかもしれません。教室で勉強するのは、アンチリーダーのグループだけといった様相になることも想像されます。
また、友達に暴力をふるったり、施設を壊したりするような子どもに対して、これまで「出席停止」という方法はなかなか取れませんでしたが、保護者との相談の上で家庭で授業を受けるという選択も考えられます。
次に起こりうるのが、友達の家や公共施設で数人が一緒にリモート授業を受けるというスタイルです。教室の荒れや同調圧力の息苦しさから逃れてきた子は、友達と一緒に過ごす権利までは奪われたくないため、このようなスタイルを望むと思われます。
専業主婦や高齢者が、これらの子どもを見守るような新たな職が生まれる可能性もあります。学習塾がサービスを付加しながらその場を提供する可能性もあります。
また、いくつもの民間の学習ソフトが、基礎的な内容であれば一人でも学べるコンテンツを開発しています。自分に合ったペースで学べるため、短い時間で習熟できることがすでに証明されています。
これからは「学校でみんなと」「友達と数人で」「一人で」という学習スタイルを子どもが選べる時代になります。

果たしてこれがどのようなスピードで進行するかは分かりません。しかし、自然災害や感染症の流行などに伴って全員が家庭で授業を受けるという事態も発生するでしょう。これが一定程度続くと「勉強は学校でする」という概念は崩壊し「家でも勉強できる」意識が定着します。

意識改革の「飽和点」はそれほど遠くないように思います。


子どもたちがバラバラになった時点で、「令和の日本型学校教育」の②全人的な発達・成長の保障は、学校から切り離されていきます。例えば、学習は一人で家でするけど、その後、地域スポーツクラブでいろいろな人と交流する中で社会性を身につけるという子も想定されます。このような分散型の教育機会こそが、本来、教育基本法が目指す教育のあり方です。

 

“第三条 国民一人一人が、自己の人格を磨き、豊かな人生を送ることができるよう、その生涯にわたって、あらゆる機会に、あらゆる場所において学習することができ、その成果を適切に生かすことのできる社会の実現が図られなければならない。“


当然、さまざまな問題が発生します。家でやると言って勉強をしない子も出てくるでしょう。それを支えるのは保護者の役割にしていかなければいけません。教員は授業中は一人一人の子どもを見て回る机間指導をしますが「家間指導」は不可能です。
余裕がなく支えきれない保護者や力で押さえつけようとする保護者もいるでしょう。
そこで学校が今までのようにおせっかいになりすぎると、教員が保護者の教育までしなければいけなくなります。ここまでのブログでも述べてきたように、そこで手を出すことによって、家庭の教育力、地域の教育力、行政の支援制度を弱めてきたという反省を忘れてはいけません。

今、早急に整備・強化すべきは、保護者を支える行政の機能だと思います。これは、学校がプラットフォームになっている現在でも追いついていないくらいです。(ただ、こちらも人員不足に苦しんでいるということは承知しながらあえて無茶振りをしています。)
「中間まとめ」で示された「令和の日本型学校教育」の③安心・安全な居場所・セーフティネットとしての身体的、精神的な健康の保障はそもそも学校以外の行政の役割です。
今まで子どもたちを一か所に集めることで、子どもたちが起こす事件は学校の中だけで処理されてきましたが、これからは、子どもたちが世に放たれるわけですから、警察も忙しくなるでしょう。

当然、学校には関係各所から強力な協力要請があるでしょう。しかし、ここで一定程度の線引きができないと子どもたちが豊かに学び育つ社会にはなりません。今必要なのは、家庭、地域、行政が「当事者意識」をもつことであり、コロナがその大いなる契機となります。

②、③を切り離しながら、教員は①学習機会と学力の保障に特化できる環境をつくっていかなければいけません。それは②全人的な発達・成長の保障を否定するものではなく、①を行う中でできる範囲での役割になります。

 

①学習機会と学力の保障について「中間まとめ」が示す姿は、対面とオンラインのハイブリッド「個別最適な学び」「協働的な学び」です。これは明治に始まった近代教育の中で最大の転換となるでしょう。
「中間まとめ」は、これらの転換がICTの発達によってたやすく成立するような口調ですが、具体的な部分は何ら示されていません。もしかしたら、文部科学省お得意の「学校丸投げ」バックドロップがまた炸裂するかもしれません。

ただ、新しい学びのスタイルを構築していく作業は私には「ワクワク」する類のものです。対面とオンラインのハイブリッドに耐えうる教材の開発。しかも、「与える」から「自ら学ぶ」への転換、活用力の育成という大命題があります。このような教員本来のクリエイティブな仕事に戻るためにも、学校の働き方改革の推進と本来業務に集中できる環境の構築が望まれます。

 

 

【ポストコロナの学校改革①】学校制度のボトルネック

 

【ポストコロナの学校改革②】平成30年間の学校教育の変質

 

【ポストコロナの学校改革③】学校が抱えた保護者の監督責任

 

【ポストコロナの学校改革④】いじめを防げない学校のボトルネック

 

【ポストコロナの学校改革⑤】学校の働き方改革と子どもの学びの両立を

 

【ポストコロナの学校改革⑥】未来に生きる力を育てる

 

【ポストコロナの学校改革⑦】「自ら学ぶ子ども」をどうやって育てるのか 

 

【ポストコロナの学校改革⑧】脱「日本型学校教育」〜教員の本来業務に集中できる環境を〜

 

【ポストコロナの学校改革⑨】学校は何を教えるところか

 

【ポストコロナの学校改革⑩】幸せをもたらす教育施策

 

 

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