学校の働き方改革「10の提言と50の具体策」

持続可能な学校をつくるための具体的な提案

【コラム1】部活動指導員の効果「160時間削減」の意味は?

12月6日に行われた中教審特別部会で[別紙3]として、「学校における働き方改革の諸施策の方実施による在校時間の縮減の目安」が示されました。

この中の一部は報道でも紹介され、私の手元の2紙では「答申素案では改革の具体策で縮減できる一人当りの年間勤務時間数の目安も提示。公務支援システムの活用で成績処理などの負担を軽減し年約120時間、部活動に外部指導員を充て、年約160時間をそれぞれ減らせるとした。」と書かれています。

年間160時間は、月にすれば13時間20分。月80時間の残業を67時間弱に縮められるということになります。ちなみに「160」を導き出した計算を見ると次のようにあります。

学期中:平日1日・休日1日、長期休業中:20日

→学期中:120時間    +    長期休業中:20日 × 2時間9分

年間約160時間

「平日1日・休日1日、長期休業中20日」休めるのは部活動指導員が充てられた部活動の顧問だけです。

全国の中学校の教員数が約25万人、今年度の部活動指導員の配置が4500人として、おおよそ50人に1人だけに160時間の恩恵があるということになります。年間160時間の効果を50分の1に平すと1人あたり年間3時間12分、月16分間の縮減にしかなりません。仮に1人の部活動指導員で2人の顧問の指導時間が削減できるとしても1人あたり年間6時間24分

報道では「一人当たり」と示されていますから、部活動指導員の恩恵がある教員のみの数値とは捉えられず、かなり誤解の生じる書き方になっていると思います。

ちなみにこの1人あたり年間3時間12分にかかる費用は年間50億(県と市町村の負担も合わせると150億)。もしも、額面どおり「年間160時間」の効果を出そうとすれば国で2500億、県と市町村も合わせて7500億。だったら、教員の残業手当9000億円を払った方がよほどいいです。

ちなみに私が本ブログで提案した【具体策3】部活動を「指導時間」と「見守り時間」に分けるhttp://nozzworld.hateblo.jp/entry/2018/11/04/121437 を実施すれば部活動顧問になっている教員には年間160時間以上の削減が期待でき、かかる費用はほぼゼロです。

 

《参考URL》[別紙3]「学校における働き方改革の諸施策の方実施による在校時間の縮減の目安」はリンク先P72、73

http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/079/siryo/__icsFiles/afieldfile/2018/12/06/1411603_1.pdf

 

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【具体策4】英語の+35コマを時間割のコマを増やさずに行う

2020年度から、小学校5・6年生の英語、3・4年生の外国語活動は現行の時間数+35コマの授業時数になります。3・4年生は現行の週27コマから28コマ、5・6年生は週28コマから29コマが基本となります。または、1コマを増やさずに15分×3のモジュールにする方法もあります。

1コマ増か?モジュールか?

学校は難しい選択を迫られています。一方で、いくつかの市町村では2年間の前倒しで1コマを増やしていますが、あまりの負担に現場からは悲鳴に近い声が上がっています。

実は、「1コマ増か?モジュールか?」ではないのです。どちらもせずに、35コマを確保する方法があります。

【提言1】で、ある小学校の授業時数の例を示しましたが、学校には980コマの授業コマ以外に120コマ程度の余剰コマがあります(学校によって差はあります)。イメージとしては、「4月から授業だけをやったら、2月の途中で勉強はすべて終わる」感じです。この余剰コマに「行事、クラブ、児童活動」が入れられていますが、これらの時間数は任意です。つまり、120の余剰コマに入っていた行事、クラブ、児童活動を削減すれば、コマ数を増やさずに35コマの英語の時間を生み出すことができます。(ただし時間割はかなり工夫が必要になります。)

そして、その改革のチャンスは2020年度の学習指導要領の本格実施の時しかありません。つまり2019年度の1年間で、28コマ内で英語の+35コマも行うプログラムを作ることが必須です。プログラムの実施には現状の行事等の削減が必須ですから、十分な議論が必要です。まさに「今から」この議論をスタートさせなければいけないのです。

【提言3】で示した「マスト」と「ベター」の区別に従うなら、英語はマスト、行事はベター(マストではあるが、時間数の設定がない)ですから、順序としては「まず英語の時間確保し、余った時間で行事を行う」ことになります。週29時間は、小学生の発達段階から考えても、教員の負担から考えても、望ましい措置でないことは明らかです。

保護者には理解を求めなければいけません。「英語の35時間が増えた分、行事等を削減しなければコマ数が増え、学校運営が立ち行かなくなる」と説明すれば、削減に対する理解は得られるでしょう。これを実施するのとしないのとでは先生の働き方に大きな差が生じます。「これすらできない」学校であれば、もはや持続可能性は見込めません。これは働き方改革を本気で進める気があるか、ないかの試金石でもあると思います。

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【提言4】「マスト」と「ベター」の区別をする

学校運営における「マスト」と「ベター」の曖昧さは極めて大きな問題です。

例えば、出席簿は公簿でありマストです。運動会はマストではありません。学校行事の中に「体育的行事」を行うことは示されていますが、100m走記録会でも構わないのです。

ベターでありながら非常に大きな負担を生じさせているのが通知表です。中学校では内申書の補助簿、準公簿的な扱いにはなっていますが、法的な根拠はありません。

逆にマストでありながら、適切な運用がされていないのが学習指導要領です。各教科の指導内容が冊子になって細かく示してありますが、ほぼ読まれていません。勤務時間内に読む時間が設定されないからです。中学校であれば専門の教科についてだけ読めばいいのですが(それでも読んでいる人は多くないようですが)、小学校のように国語、算数、社会、理科、体育、図工、音楽、生活科、家庭科、総合、道徳、外国語、特別活動となると多忙な現場できちんと理解するほど読み込むのはほぼ不可能です。

ベターがマストを排除してしまっているケースもあります。【提言1】でも示しましたが、学校行事の準備のために、教科指導の時間が食われてしまうことがあります。小学校6年生の980コマの授業のうち53コマが行事等の準備に使われてしまっている事例がありました。特に運動会や学習発表会の準備に時間がかかり、教科をつぶさないと間に合わないのです。中学校では、宿泊学習の準備を「総合的な学習の時間」や「道徳」でカウントしてしまう例があることも聞きました。部活動もベターの扱いですが、放課後に設定され、授業の準備が部活動終了後、勤務時間終了後になるのは、優先順位が逆になってしまっていると言わざるを得ません。

これらの弾力的な運用によって、運動会や学習発表会、宿泊学習、卒業式、部活動などが充実し、子どもたちや保護者にとって満足してもらえることも分かります。通知表も詳細な記述があれば受け取る側は嬉しいでしょう。

しかし、マストはマストです。子どもたちにとってよいと言って、削減されたり優先順位が逆になるのは望ましくありません。

学校におけるマスト中のマストは教科等の指導です。例えば前述の6年生の教室では、1年間に授業が可能なコマ数は1,100コマでした。学習指導要領に定められた教科等の時間数は980コマですから、120コマの余剰があります。120コマの使い道は、学校行事、クラブ・委員会、児童活動ですが、コマ数の設定はされていないので、縮減は可能です(現状はほとんどの学校で余剰をオーバーしていると思います)。しかし、ここにさらに行政の事業やイベントなどが割り込んできます。例を挙げれば、国は全国学力・学習状況調査を、県は体力・運動能力調査を、市町村は独自の学力調査や自治体の行事を下ろしてきます。今挙げたのはほんの一部です。

マストとベターの区別をするというのは、まずマストの時間を確保し、残りの時間でベターを行うという考え方です。学校は無限の時間があるかのようにベターが詰め込まれますが、マストを圧迫するような入れ方はもちろんNGです。

今は見直しのチャンスです。マストとベターを行政と学校が改めて見直し、マストを確保するためにベターを削減することを丁寧に保護者や地域に説明して理解を求めることが必要です。結果として今までより魅力のない学校になるかもしれませんが、それがあるべき等身大です

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【提言3】「グレー」な運用を適正化する

学校がブラックになったのは「グレー」が多すぎるからです。

朝、多くの小・中学校で子どもたちは8時前には学校に到着しています。職員の勤務開始は8時15分くらいのようです。子どもたちが早く到着することで教職員は勤務時間の30分〜1時間も前の出勤を強いられています。これは明らかに問題です。

問題があるにもかかわらず、弾力的な運用が行われてきたのは、子どもたちのためとも言えるし、保護者や地域のためとも言えますが、献身的であることを美徳とする学校の姿勢が根底にあったと思われます。しかし、今それが大きな仇となりました。

教員の休憩時間にも問題があります。休憩時間を、子どもたちの給食時間と重ねたり、昼休みと重ねたりして「取ったこと」にしていますが、もちろん実際は取れていません。6時限後に設定する場合もありますが、部活動と重なっていたり、職員会議が入ったりします。ただ設定はしてあるので「黒」ではないですが、極めて濃いグレーです。

そもそもの業務量も問題です。勤務時間内でできる仕事は、授業と生活指導でいっぱいで、残りの時間に授業準備をしたらはみ出るほどです。しかし、それ以外に大量の書類作成や会議、行事の準備などがあります。給特法では残業を命令しないため自主的・自発的な活動として処理されますが、本来は時間外に行う仕事は「ゼロ」であるべきです。命令のない残業によって過労死する教員がいる運用はどう考えても「黒」なのですが、法的には「白」にしかならないのが現状です。何ともやり切れません。

部活動は通常16時〜18時あたりに設定されています。子どもたちにとってはシームレスな活動ですが、教員は勤務時間終了を境に勤務の態様がガラッと変わります。勤務時間内は命令ですが、それ以降は「自主的・自発的な活動」の扱いになり「無給」になります。教員に事故があった時に公務災害補償の対象となるかどうかも不透明です。勤務の態様が変わることが知らされることもなく公然と仕事が続けられています。これも実にグレーです。

土日の行事等の参加もグレーであることが多々あります。管理職から「子どもたちを引率して公民館に行ってください」などと言われますが、それが「命令」なのか「依頼」なのかは知らされることはほぼありません。部活動手当に相当する手当が支給されることもありますが、ボランティアで済まされることもあります。また、週休日の振替措置が取られることもありますが、中には学校の教育活動とは関係のない行政のイベントにも参加させられることがあります。それが許されるなら校長の家の庭掃除をさせられてもおかしくないでしょう。ここでもグレーなままの運用が許されています。

さて、学校の働き方改革を進めるのならこのグレーな運用をまず「白」か「黒」に分けるべきでしょう。許される部分(白)とそうでない部分(黒)を定め、すぐには無理でも、グレーと黒のない運用に変えていく努力が必要です。

これによって教員の意識改革を進めることも可能だと思います。例えば、土日の行事に言われるまま出ていたのが、「命令ではない」「断ることも可能」と知ることで働き方を選択することができます。管理職も勤務の態様を説明し、負担が増える分の削減を提案しながら依頼をするなどの工夫が必要になります。

保護者や地域にも意識改革は必要です。例えば、できるだけ子どもを早く学校に出したい保護者、土日にかかわらず学校から子どもを参加させてほしい団体などは反対するかもしれません。しかし、制度が変わったのですから理解していただくしかありません。消費税が5%から8%になってもみんな従っているのですからそれくらい充分に許容範囲内でしょう。「教育の未来を守るために必要なのです」と理解を求めましょう。

給特法のもとでは本来、残業は「やりたい放題」「させ放題」ではありません。まずは文部科学省が「残業はゼロが基本」と示せば、そこに近づける運用をみんなで考えなければいけません。文部科学省も相当な制度改革と予算確保が必要になります。今まではその努力をせずに、全部教員にツケを回していたのですからこのような事態になったのです。同じようなことが教育委員会にも言えます。グレーを「白」「黒」に分けるだけで、学校の働き方改革は意識改革も含め、前進の力が強まるでしょう。

グレーは「ブラック」にしかなりません。【提言2】で述べた人材確保のためにも、グレー運用は排除すべきです。

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【提言2】目的は「人材確保」という認識から出発する

2年ほど前まで、学校の多忙解消の謳い文句は「子どもと向き合う時間」でした。

しかし今、これは「持続可能な学校」に変わりました。この意味が本当に伝わっているのでしょうか?私は学校の働き方改革にかかわる様々な議論を見聞きしながら危惧しています。


富山県を例にすれば、昨年の教員採用試験の受験者数は1006人。それが今年は888人(11.7%減)です。ここ10年ほど1000~1100人の受験者を保持していたので、まさに「急落」です。全国的に見ても154,084人から142,221人に減っている(7.7%減)なので、同様の傾向が見られます。

これによってもたらされるのは、深刻な教員不足です。産休や病休による欠員が出た場合、通常、講師が配置されますが、その講師がなかなか来ません。4月に担任が決まらないという県もあります。

富山県では6月に22人(22校)の講師未配置があったことが明らかになっています。富山県の学校数は小・中・高・特別支援合わせ340校余ですが、未配置の多くは小・中学校です。「教員が1人足りない」ことがもたらす負担はどれくらいになるでしょう?

教員1人の1か月の所定勤務時間は155時間(7時間45分×20日)、それに時間外勤務時間を月80時間として加えた月235時間を1人当たりの労働時間とします。小・中学校1校の平均的な教員数を20人とすると、1人がいないことによって増える労働時間は月平均11時間45分になります。大雑把な言い方をすれば、「1人の未配置で時間外勤務12時間増し」です。これが教員数が12、13人の学校では「24時間増し」になります。実際には、負担は一部(教務主任、学年主任等)に集中しますから、80時間の時間外勤務が簡単に100時間、120時間になります。それによって病休者が出て、さらに負担が加速していく例もあります。

また多忙が原因で子どもたちに「荒れ」が生じることがあります。教員の側に子どもたちの変化に気づく余裕がないからです。一旦、大きな事件が起こると事後処理やクレーム処理にまた多大な時間を要し、さらに多忙が加速します。その心労が原因で病休を取らざるを得なくなる人もいます。多忙、荒れ、人手不足の三重苦は負の連鎖となりそこから抜け出るためにはかなりの時間と労力がかかります。それが常態化するとますます志望者が遠ざかっていきます。


今、教員の長時間労働を縮減しようと様々な取組が始まっていますが、90時間の時間外勤務を80時間にするだけでもかなり大胆な施策が必要です(当ブログの【具体策】をお読みいただければお分かりになっていただけるでしょう)。1人の講師不足によってあっけなく削減の努力が「ふりだし」に戻るのですから、人材不足が長時間労働に及ぼす影響は深刻です。


では、どうすればいいのか?

「人(定員)を増やせばいい」という意見を聞きます。しかし、「人」そのものがいません。「職員室に席ができても座る人がいない」のです。

「給料を上げればいい」という意見もあります。大阪市は初任給を26万円にしましたので、その効果に注目が集まります。ちなみに初任給が20万円だとして100時間の残業をすれば通常であれば15万円以上の手当が出ます。5、6万円上がったからと言って「月100時間の残業、残業手当なし」の仕事に人気が出るかは疑問です。

このように考えると「業務を削減する」しか方法はないことは明らかです。一人当たりの業務量にゆとりをもたせることで人員減に対応する幅ができます。子どもに目を行き届かせることによって「荒れ」を未然に防ぐことができます。長時間労働が縮減されれば職業としての魅力も増し、志願者も増えるでしょう。

しかし、業務の削減を訴えると非常に大きい反作用が発生します。分かりやすい例が部活動です。教員の負担減が訴えられても、「子どもたちの成長したいという気持ちはどうするのだ」「教師としてやるべきだ」「国としてスポーツ振興は重要だ」「縮減は保護者の理解が得られない」などあらゆる角度から抑制が働きます。最近では「部活動指導は負担だけど楽しい」という意識も明らかになりこの論争には出口が見当たりません。

部活動だけではなく、学校行事、地域行事、家庭学習、研修など、教員の負担を高めているあらゆるものに削減の反発が生じます。

しかし、このままの働き方を続けると先生が足りなくなることは明らかです。その弊害は子どもたちを直撃します。今はよくても、未来の学校は崩壊します。

「ガチョウと黄金の卵」のお話をご存知でしょうか?黄金の卵を産むガチョウによって金持ちになった男が、1日1個しか産まないのを待ちきれずガチョウの腹を切り裂いてしまう話です。学校が削減をしないまま、今のままのサービスを提供していくのはガチョウの腹を切って金を求めることと同じだと私は思います。

 

学校の多忙解消の目的は「持続可能な学校」であり、その基盤となるのが「人材確保」です。今後、若者が減り、労働力人口が低下していくことが確実な中、企業は人を獲得するために必死です。学校における人材確保の最も効果的な方法は業務量の適正化=業務の削減です。確かにサービスの低下には抵抗を感じるとは思いますが、5年後、10年後の学校の姿を考えると、道はそれしかありません。

皆様のご意見をお待ちしております。

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【具体策3】部活動を「指導時間」と「見守り時間」に分ける

部活動については様々な立場からの意見があり、収拾は不可能にも思えます。

私がこれから提案する内容も全ての人を納得させるものではないでしょう。

ただ、問題を整理することで私なりの解決の方向を考えたので以下に記します。

 

[教員の勤務の態様を明らかにする]

部活動の時間を16:00〜18:00とします。生徒にとってはシームレスな活動ですが、教員にとっては勤務時間前と後では大きな違いがあります。※以下、勤務終了時刻を16時45分として説明

 

〈16:00〜16:45〉

命令に基づく勤務。給料が支給される。教員に事故があった場合、基本的に公務災害補償の対象となる(最終的には基金支部の判断)。

〈16:45〜18:00〉

教員の自主的・自発的な活動。給料も時間外勤務手当も支給されない。教員に事故があった場合、公務災害補償の対象となるかどうかは校長が「公務であった」と認めることが基金支部の判断を大きく左右する。

 

一生懸命に指導に当たる先生は「16時45分」を区切りとしてこれほど大きな違いが生じているとは意識していないでしょう。本来、管理職から上のような勤務の態様の違いが説明されて然るべきと思います。16時45分以降の活動については本人の意向に従って「やる」「やらない」の選択がなければならないでしょう。その部分が「暗黙の合意」によって非常にグレーなまま運用されてきたことが、今の混乱を招いていると思います。

もし、16時45分以降に部活動指導をやると選択した場合も、「生徒が怪我をした場合の責任は個人ではなく管理者・行政に発生すること」「教員に公務災害と思われる事案が発生した場合、管理職として『公務であった』ことを証明すること」を書面で約束するくらいのことはしてもよいでしょう。

「教員は生徒の成長のために献身的にやらなければならない」という主張も分かります。だからと言って労働条件をないがしろにしてよいということにはなりません。現に長時間労働によって過労死したり、教員のなり手が不足したりしているのです。

 

[16時45分以降は「見守り」とする]

名古屋大学の内田良准教授の調査で公立中学校の46%の教員が来年度の部活動顧問を「したくない」と答えたそうです。この結果を見ても、制度的にかなり無理がきていると思います。(ただ私は、100%の教員が「やりたい」と答えても現状のようなグレーな運用には反対です。)

46%の教員が勤務時間後の部活動を断ったら、部活動の制度は破綻します。

部活動指導員も予算はわずかであるし、なり手が見つからず苦労している地域もあります。

そこで、16:00〜16:45は「指導時間」として顧問が指導し、16:45〜18:00は「見守り時間」として、「見守り隊」(保護者、地域の有志、教職員等)が若干名、グラウンド、体育館、音楽室とエリアを決めて巡視するという方法を提案します。

16:00〜16:45の「指導時間」は顧問の教員がリーダーを中心に練習メニューを確認したり、可能であれば技術指導をしたりする時間です。16:45以降の練習の確認も必要な場合もあるでしょう。

16:45になったら教員は部活動から離れます。それ以降は、生徒の自主的・自発的な部活動になり、「見守り隊」が安全を見守る形になります。練習日も練習時間も生徒が自分たちで考えたものになるため「月・水・金のみ17:30まで」「16時45分で帰る生徒がいてもよい」などと柔軟な設定になります。見守りの主体は例えばPTAで、そこにボランティアの教員が交代で加わったり、地域から有志を募ったりという形が考えられます。最もよいのは行政が予算をつけて、登下校時の見守り隊(防犯パトロール)のようなボランティア組織を作ることだと思います。事故があった場合の保険や参加させる保護者の同意書も用意し、16時45分以降は学校とは切り離す制度とします。

これによって顧問は1日1時間15分の時間外勤務時間の短縮になります。概算で月あたり16時間程度マイナス(例えば月90時間の時間外勤務時間が74時間に減る)と考えれば、「目に見える効果」と言えます

 

以上の提案には問題点も多々あるでしょう。そもそも公立中学校を想定した案であり、高校の解決策にはならないかもしれません。

また、教員の休憩時間をどこで確保するのか?土日の部活動はどうするのか?競技力が弱まったらどうするのか?このやり方で生徒は育つのか?生徒指導面の歯止めが弱まるのではないか?16時45分で顧問が帰ったら生徒はどう思うか?保護者は部活動の見守りをするのか?結局、教員が見守りも全てやらなければならないのではないか?

しかし、今一番ダメなのは「このままにしておく」という選択ではないでしょうか?

地域によって事情も違うので、一概には言えません。一方で、16時45分以降は地域から指導者が出て、教員以外で部活動を行なっている地区もあります。

今回の提案はベストとは思いませんが、ベターであるとは思います。よりよい方法があればぜひご提案ください。

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【具体策2】現状分析からエビデンスを

「2016年度教員勤務実態調査」で中学校教員の6割が過労死ラインの時間外勤務をしていたことが明らかになっています。

なぜこんなに忙しいのかという理由は「給特法が・・・」「部活動が・・・」「支援が必要な子どもが・・・」「保護者対応が・・・」「教科が増えて・・・」など数多ですが、核心部分はどこにあるのでしょう。現状を分析、整理していきましょう。

 

前述の「2016年度教員勤務実態調査」では、1日の業務内容別時間が明らかになっています。

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この中から、子どもに関する指導として「最低限これだけは必要だ」と思われる業務だけ取り出してみます(平日のみ)。

小学校で8時間33分(朝の業務0h35m、授業・授業準備・学習指導5h57m、成績処理0h33m、生徒指導1h05m、学年・学級経営0h23m)

中学校で8時間16分部活動を除く。朝の業務0h37m、授業・授業準備・学習指導5h11m、成績処理0h38m、生徒指導1h20m、学年・学級経営0h38m)

ということで、共に7時間45分の勤務時間を超えています。そもそも「収まらない」設計であることが明らかです。(残念ながらこの部分は基本的に人員を増やすことでしか改善できません。仮に予算がついたとしても人員は完全に不足しています。)

では次に「工夫次第で削減が可能」と思われるものを取り出してみます。

小学校で1時間48分(クラブ活動0h07m、児童会0h03m、学校行事0h26m※準備を含む、学校運営0h22m※校務分掌等、職員会議・打ち合わせ0.24m、研修0h26m)

中学校で2時間17分(部活動0h41m、生徒会0h06m、学校行事0h27m※準備を含む、学校運営0h21m※校務分掌等、職員会議・打ち合わせ0.25m、研修0h18m)

これらはそのまま時間外勤務時間として発生します。

()内の内訳を見ていただければ分かるように、

部活動(中)

学校行事 ※行事準備含む

職員会議・打ち合わせ

学校運営 ※校務分掌等

研修(小)

これらが時間外勤務時間を増加させていることが分かります。

つまり、学校の業務削減をするなら、上の5項目を削減は避けては通れないということです。

さらに、この5項目をよく見てみると、私には一つのキーポイントが浮かび上がって見えます。

それは学校行事です。

なぜなら、学校行事を減らすと、行事準備も減り、職員会議や打ち合わせも減り、校務分掌にかかる時間も減るからです。

もちろん学校によって差はあるでしょうから学校毎に分析が必要です。

それを誰がやるかというと教育委員会と管理職しかありません。この調査のような細かな時間の把握は難しいですが、部活動の総実施時間や、行事に使ったコマ数などはすぐに計算できます。

企業が財務の厳しい分析と適正化を行うのと同様に、学校は時間の分析と適正化をしなければいけません。それが今の学校に必要なのマネジメントではないでしょうか。

削減には保護者や地域、職員の理解が必要になります。実はここで同意を得るのがが最も難しいのです。しかし、このようなエビデンスがあれば理解を得やすいはずです。このまま学校が壊れていくのを選択するか?業務を削減することを選択するか?みんなが一緒に考えなければいけません。