学校の働き方改革「10の提言と50の具体策」

持続可能な学校をつくるための具体的な提案

【提言2】目的は「人材確保」という認識から出発する

2年ほど前まで、学校の多忙解消の謳い文句は「子どもと向き合う時間」でした。

しかし今、これは「持続可能な学校」に変わりました。この意味が本当に伝わっているのでしょうか?私は学校の働き方改革にかかわる様々な議論を見聞きしながら危惧しています。


富山県を例にすれば、昨年の教員採用試験の受験者数は1006人。それが今年は888人(11.7%減)です。ここ10年ほど1000~1100人の受験者を保持していたので、まさに「急落」です。全国的に見ても154,084人から142,221人に減っている(7.7%減)なので、同様の傾向が見られます。

これによってもたらされるのは、深刻な教員不足です。産休や病休による欠員が出た場合、通常、講師が配置されますが、その講師がなかなか来ません。4月に担任が決まらないという県もあります。

富山県では6月に22人(22校)の講師未配置があったことが明らかになっています。富山県の学校数は小・中・高・特別支援合わせ340校余ですが、未配置の多くは小・中学校です。「教員が1人足りない」ことがもたらす負担はどれくらいになるでしょう?

教員1人の1か月の所定勤務時間は155時間(7時間45分×20日)、それに時間外勤務時間を月80時間として加えた月235時間を1人当たりの労働時間とします。小・中学校1校の平均的な教員数を20人とすると、1人がいないことによって増える労働時間は月平均11時間45分になります。大雑把な言い方をすれば、「1人の未配置で時間外勤務12時間増し」です。これが教員数が12、13人の学校では「24時間増し」になります。実際には、負担は一部(教務主任、学年主任等)に集中しますから、80時間の時間外勤務が簡単に100時間、120時間になります。それによって病休者が出て、さらに負担が加速していく例もあります。

また多忙が原因で子どもたちに「荒れ」が生じることがあります。教員の側に子どもたちの変化に気づく余裕がないからです。一旦、大きな事件が起こると事後処理やクレーム処理にまた多大な時間を要し、さらに多忙が加速します。その心労が原因で病休を取らざるを得なくなる人もいます。多忙、荒れ、人手不足の三重苦は負の連鎖となりそこから抜け出るためにはかなりの時間と労力がかかります。それが常態化するとますます志望者が遠ざかっていきます。


今、教員の長時間労働を縮減しようと様々な取組が始まっていますが、90時間の時間外勤務を80時間にするだけでもかなり大胆な施策が必要です(当ブログの【具体策】をお読みいただければお分かりになっていただけるでしょう)。1人の講師不足によってあっけなく削減の努力が「ふりだし」に戻るのですから、人材不足が長時間労働に及ぼす影響は深刻です。


では、どうすればいいのか?

「人(定員)を増やせばいい」という意見を聞きます。しかし、「人」そのものがいません。「職員室に席ができても座る人がいない」のです。

「給料を上げればいい」という意見もあります。大阪市は初任給を26万円にしましたので、その効果に注目が集まります。ちなみに初任給が20万円だとして100時間の残業をすれば通常であれば15万円以上の手当が出ます。5、6万円上がったからと言って「月100時間の残業、残業手当なし」の仕事に人気が出るかは疑問です。

このように考えると「業務を削減する」しか方法はないことは明らかです。一人当たりの業務量にゆとりをもたせることで人員減に対応する幅ができます。子どもに目を行き届かせることによって「荒れ」を未然に防ぐことができます。長時間労働が縮減されれば職業としての魅力も増し、志願者も増えるでしょう。

しかし、業務の削減を訴えると非常に大きい反作用が発生します。分かりやすい例が部活動です。教員の負担減が訴えられても、「子どもたちの成長したいという気持ちはどうするのだ」「教師としてやるべきだ」「国としてスポーツ振興は重要だ」「縮減は保護者の理解が得られない」などあらゆる角度から抑制が働きます。最近では「部活動指導は負担だけど楽しい」という意識も明らかになりこの論争には出口が見当たりません。

部活動だけではなく、学校行事、地域行事、家庭学習、研修など、教員の負担を高めているあらゆるものに削減の反発が生じます。

しかし、このままの働き方を続けると先生が足りなくなることは明らかです。その弊害は子どもたちを直撃します。今はよくても、未来の学校は崩壊します。

「ガチョウと黄金の卵」のお話をご存知でしょうか?黄金の卵を産むガチョウによって金持ちになった男が、1日1個しか産まないのを待ちきれずガチョウの腹を切り裂いてしまう話です。学校が削減をしないまま、今のままのサービスを提供していくのはガチョウの腹を切って金を求めることと同じだと私は思います。

 

学校の多忙解消の目的は「持続可能な学校」であり、その基盤となるのが「人材確保」です。今後、若者が減り、労働力人口が低下していくことが確実な中、企業は人を獲得するために必死です。学校における人材確保の最も効果的な方法は業務量の適正化=業務の削減です。確かにサービスの低下には抵抗を感じるとは思いますが、5年後、10年後の学校の姿を考えると、道はそれしかありません。

皆様のご意見をお待ちしております。

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