学校の働き方改革「10の提言と50の具体策」

持続可能な学校をつくるための具体的な提案

【具体策1】研修に時間の上限を

学校には多くの研修があります。

校内研修、指導主事訪問研修、市町村が行う研修、都道府県が行なう研修、国が行なう研修。

初任者研修、中堅教員研修のように経験年数で指定される年次研修もあります。

勤務校を一定期間離れる内地留学制度もあります。

私の勤務する富山県では、小学校教育課程研究会、中学校教育課程研究会という任意の研究団体に所属して行なう研修もあります。

研修という名前は付きませんが、教育論文を書くように校長や教育委員会から指示がある場合もあります。

10年前からは、教員免許更新制度も始まりました。

 

これらの研修がどれだけの時間外勤務を発生させているか検証しましょう。

2016年に行われた文部科学省教員勤務実態調査(平成28年では、研修に小学校で1日平均26分、中学校で1日平均18分が費やされていることが明らかになりました。

これは、年間に換算すると小学校で104時間(月8時間40分)、中学校で72時間(月6時間)になります。(※月20日×12か月で計算)

これらの研修を削減すればしただけ、時間外勤務時間を削減することができます。

研修を「まったくしない」という選択はさすがに難しいでしょうが、現在のように何から何までやるやり方は適切ではないでしょう。

 

そもそも年間100時間の研修を入れられるのは、教員に時間外勤務手当を支払わない「給特法」があるからとも言えます。もしも、これだけの研修によって時間外勤務手当が生じたら、国レベルで1000億円は下らないのではないでしょうか。(※月60時間程度の時間外勤務時間で1兆円として)

 

長時間勤務を解消するならば研修に時間の上限を定めるべきです。

仮に年間35時間程度(月3時間弱)として話を進めてみましょう。

1年間の研修計画35時間分を個々の教員が年度当初に作成し、管理職の承認を得て、研修を受けることになります。

おそらく時間外勤務手当が支払われる制度下であればそれに近い形になっただろうと思われます。

こうすればその先生に合った研修だけが自動的に選択されるため、対費用(対時間)効果が高くなります。

初任者研修、中堅教員研修を受ける教員は、それだけで35時間を超えてしまうかもしれません。その場合は、校内研修や研究会所属の研修は受けないことになります。教育論文を書くように指示された教員も他の研修は免除です。

年間35時間の上限規制で小学校で月5時間40分、中学校で月3時間の時間外勤務時間の削減ができます。

 

私がある先生(中堅)に調べてもらったところ、一つの指導案を作成するのにかかった時間は20時間でした(文書作成だけでなく、教材研究、研修会で検討した時間も含みます)。

「指導案に20時間かかるのだから35時間では足りないだろう」

と考えるか、

「指導案に20時間もかけることはないだろう。2時間くらいで書ける書式にしよう」

と考えるかで、おそらく教育の未来が変わります。

人材育成に重きを置くあまり、なり手が減少してしまっては本末転倒です。

 

研修時間の上限設定は「予算がかからない」「保護者や地域の反対も受けない」「子どもに直接の影響がない」(むしろ、授業準備の時間が生まれ、子どもたちに喜ばれる)という非常にハードルの低い具体策です。

しかし、それさえも簡単には実現しないことが学校の病です。反対される方はぜひ、代案を示していただきたいと思います。

 

ご意見をお待ちしております。また、皆さんの地域の研修の実態をお知らせいただければうれしいです。

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【提言1】「時間」を基準にしたマネジメントを

学校はマネジメントが極めて苦手です。労務管理、特に時間管理に関わるマネジメントは「ない」と言ってもよいくらいでしょう。

 

一例として、ある小学校の授業コマ数の運用を示します。

(以下の話は若干複雑ですが、時間に余裕がある方や関心が高い方は確認しながらお読みください。)

ある小学校6年生の始業式4月5日から卒業式3月16日まで、長期休業を除くと全部で約42週。

6年生は週28コマが授業に充てられていますから、フルに実施したら1176コマあります。しかし実際には、祝日や半日授業、研修による休業などで削減され1100コマが授業可能なコマ数でした。

教科の標準コマ数は学習指導要領で定められおり、年間980コマです。

つまり、1100ー980=120コマの余剰コマ数があります。

さて、この120コマが実際に何に使われるかというと、それは「行事、クラブ・委員会、児童活動」(以下、「行事等」)になります。ただ、これらの「行事等」は標準コマ数が設定されていません

実際にどれだけのコマ数が「行事等」に費やされていたかというと年間87コマでした。

余剰コマは120ですので、87コマは余裕で「枠内」であるように見えます。

しかしこれらは、「表面上の計算」の話です。

例えば、運動会は行事等としては12コマの扱い(本番が6コマ、全体練習と予行が6コマ)ですが、実際には6年生は応援練習、競技の練習などで12コマ以外に23コマを使っていました。これら23コマは行事としてではなく、応援で声を出したから国語、開会式で歌を歌ったから音楽、応援グッズを作ったから図工、というようにかなり弾力的に運用されていました。運動会全体では35コマの大行事です。(道徳の1年間の標準コマ数が35ですから、これがどれだけ大きな数か分かっていただけると思います。)

その他にも学習発表会は45コマ(処理上は行事9コマ)、卒業式は25コマ(処理上は行事5コマ)で、実際にカウントされている数倍の準備コマがありました。

年間にすると、トータル87コマの行事等に対して、実に86コマの準備コマ数が必要でした。行事等と準備を合わせて173コマ。しかし、余剰コマは120ですから53コマのオーバーです。

これらのオーバーしたコマ数はこの学校では担任の裁量で総合、学活、国語、音楽、図工などで処理されていましたが、本来は教科の学習を進めるためのコマです。当然、学期末に進度が追いつかないことが多々あります。その結果として、何とか指導の内容を終わらせるような授業が行われることになるのですが、それらは明らかに先生と子どもたちに負担になってしまいます。

また、行事が多いために教員は放課後遅くまでその計画や準備に追われています結果として「授業の準備をする時間がない」というのが教員の最大の悩みになっています。これではよい教育はできません。

 

今回の例は星の数ほどある教室のある1つですが、日本中のあらゆる教室で詰め込みすぎによるさまざまな「歪み」が生じているはずです。それは、教育を司る行政自身が必要な時間を無視した施策をどんどん学校に下ろしているからです。それが、教職員の長時間労働を招き、最終的には子どもたちが学ぶ権利を侵害していることを認識しなければいけません。また、学校も自身のマネジメント=計算で、適切な運営を行うべきです。

あらゆる行政施策が予算を前提として進められるのに対して、教育はお金をかけなくても教職員の自主的な時間外労働で可能になるため導入に制限がかかりにくいです。しかし、時間には制限があります。予算と同じように必要な時間を計算して「枠の中」に入れるマネジメントをするべきではないでしょうか。

 

【提言1】「時間」を基準にしたマネジメントを

 

今後、その具体策をブログの中で提案していきます。

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このブログについて

2年ほど前から「学校の働き方改革」の風が吹き始めました。

今、それはかつてないほどの強風となって中央から地方に吹いています。

喜ばしい事態ではありますが、現実は全く喜べません。

肝心の学校はほぼ「無風」だからです。

 

私は2年半前から、学校現場を離れ、教職員組合で勤務しています。

2年前、亡くなられた中学校の先生のご遺族から依頼を受け、公務災害認定申請の代理人として申請作業を進めてきました。今年4月にこの事案が過労死と認められたことは全国ニュースにもなりました。これをきっかけにマスコミも学校の動向を頻繁に取り上げています。

しかし、学校の長時間労働を改善するための具体的な改革が遅々として進みません。特に中学校の現場では、80時間は当たり前、100時間、150時間以上の時間外勤務をしている先生方がたくさんおられます。私は焦りを感じずにはいられません。

 

若い先生方が集まった場でそのことを嘆くと、ある先生がこう言いました。

「だって、働き方改革の風が吹いているから、その風を学校に入れようと窓を開けるんだけど、閉めていく先生がいるんです。」

現場で議論を重ねながらの意思統一は非常に難しく、それが改革のブレーキになっているのだと思います。

改革にはリスクも伴いますからそれを受け入れる余裕は今の学校にはないかもしれません。

 

もう一つ、現場の改革が進まないのは「具体策に乏しい」からだと思います。学校の働き方改革の必要性、その緊急性を論じるテキストはここ2年間で爆発的に増えましたが、「学校単位で具体的に何をどうやってやればよいか」を示したものが非常に少ないです。

例えば、「タイムカード」は業務改善の具体策ではありません。タイムカードで時間を把握し、分析し、対策が生まれて初めて具体策と言えます。(タイムカードを否定している訳ではなく、タイムカードは「体温計」、具体策は「薬」のようなものと捉えてください。)

私の考える具体策というのは、例えば「1人が行う研修の時間に年間35時間の上限を設ける」というような実効性のある「最後の一手」です。現在、文部科学省の調査で、小学校で1日平均30分近くの研修があることが明らかになっています。実に年間120時間になります。これに35時間のキャップをつけることで、月あたり7時間の縮減になります。

当然反論もあるでしょう。それは歓迎します。「ではどうすればいいのか?」という議論に発展していければよいからです。

 

私はこのブログで「何をやればよいか」の具体策を提案していきたいと思います。目標は50。「50の具体的提案」です。中には個々の学校では実行に移せない、例えば「始業式を4月8日以降に行う」というような行政レベルの案もありますが、読んでおられる方の賛同を得られればみんなで行政に訴える動きも作れるでしょう。

また、「なぜそうしなければいけないか」という考え方も提言していきたいと思います。これは最終的に10にまとめたいと思います。「10の提言」です。

そして、読者の方から賛成・反対のご意見をいただき、常にアップデートしていきたいと思います。現場ではなかなかできない議論をこの場で進められれば、両論併記の提案ができると思います。

そして、このブログで「いいな」と思ったことをどなたかが学校で提案したり、実際にやってみた効果をフィードバックしていただけたら、それをまた追い風にしていけると思います。

このプラットホームから学校を改善する風を一緒に吹かせませんか?!

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