学校の働き方改革「10の提言と50の具体策」

持続可能な学校をつくるための具体的な提案

【具体策11】夏休みの宿題と作品応募のあり方を見直す

私の住む地域では、小学校の夏休みの宿題は、①ドリル、②作品応募、③日記、④自主学習などが一般的です。提出物として、「生活表」(日々の学習時間や1行日記の記録)やラジオ体操カードなどがあります。

たくさんの宿題を出す背景には、教員側に「1か月以上勉強をさせなかったら子どもたちの学力が低下してしまう」という不安、保護者側に「宿題がなかったら子どもたちはゲームばっかりしてしまう」という不安があり、これを同時に解消するWINーWINの関係があることは間違いありません。一方で、夏休みの終わりには、何で早く取り組まなかったのだろうという子どもの後悔、宿題をさせきれなかった親の怒り、そして大量に積まれた夏休みの宿題を処理しなければいけない教員の憂鬱が発生します。

また、宿題として定番になっている作品応募は、自由研究、絵画、読書感想文、作文、写真など、様々なものがあります。これには、教員側の「夏休みに何かよい課題を与えたい」という願いと、各種団体側の「子どものために何かしたい」「うちのイベントを子どもたちの作品で盛り上げたい」という願いが重なり、WINーWINの関係になっていると思われます。しかし、作品応募にかかる教員の負担が多大であることはあまり知られていません。

今、私の手元に、とある小学校の作品応募の一覧がありますが、全部で24種類(B4用紙に3ページ)の課題が紹介されています。それぞれの課題から自由に選んで子どもたちは作品をもってきますが、一つ一つの作品に作品票を貼ったり、出品作品を選考したり、出品者名簿を作ったり、梱包したり、発送したりする作業はすべて教員が行うことになります。例えば、30人のクラスの担任であれば、「1点か2点の出品」を宿題にすると30〜60程度の作品の処理をしなければいけません。これらの業務が、授業の準備に多大な弊害を与えていることは世間には知られていません。

実は文部科学省はこの問題を認識しており、柴山文部科学大臣は、今年1月29日に「学校における働き方改革に係る文部科学大臣メッセージ」を公表し、次のように述べています。

「例えば,学校は,多様な機関から依頼を受け,子供・家庭 向けの周知などを行っています。特に夏休みなど長期休業前は依頼が多く, 子供たちの成績処理で忙しい時期にも関わらず,学級ごとに配布物を仕分け,学級担任が一枚ずつ配っています。各機関からのそれぞれの依頼は小さいですが,これが積み重なることで負担が大きくなっています。」

「学校への子供・家庭向け周知等の依頼は厳に精選いただき,学校を経由しない方法(公共施設等での配布,インターネットや広報誌への掲載など)を活用いただくこと。」

「作文・絵画コンクール等について,学校単位での応募や学校による審査や取りまとめを要件としない,また,学校経由での子供への周知を求めないようにしていただくこと。」

(詳細は http://202.232.190.211/a_menu/shotou/hatarakikata/1419588.htm

しかし、残念なことに、このメッセージは作品応募を依頼する団体にまったく届いておらず、今年も例年どおりの応募が行われています。

本来、学校外の各種団体が子どもたちを対象に行うコンクールやコンテストは「社会教育」の分野であり、「学校教育」とは切り離される部分です。それが、「夏休みの宿題」というWIN-WIN(当時)の接点によって、強固に結びついてしまいました。かつては(今も)、作品の提出を強く迫る団体もあり、結果として抱えきれない量になりました。

私は柴山文科大臣がメッセージで示したとおり、学校の作品応募は「学校を経由しない方法」で行われるのがベストだと思います。学校が作品応募に追われて授業の準備に支障が出ている状態を早急に是正すべきです。ただ、各団体が学校に頼りきっている状態で「今さら」切り離しをすることは簡単ではないでしょう。ここで必要なのは「対話」ですが、数多の団体一つ一つと対話をすすめる余裕はありません。

富山県職員組合では、JA主催の「書道コンクール」について、主催団体と意見交換を行いました。(写真は私のフェイスブックのスクショです。)

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私たちのこのとりくみは始まったばかりですが、これ以外の数多の団体に対して「どこから手をつけていいのか」悩ましいところです。過去には対話をお願いしても門前払いされた経験もあり、簡単ではないと思っています。

学校独自でできる工夫もあると思います。単に出品数を減らすのであれば、宿題にせずに「募集の紹介」に留めるという方法があります。子どもたちの自主性も支えられます。出品数が減って困る団体もあるかもしれませんが、それは募集に魅力がないからであり、それを何とかするのはその団体の役割です。それを学校が手助けすると、社会の教育力が低下することも考えなければいけません。同様のことが家庭にも言えます。宿題もやみくもに出すのではなく、減らすことによって家庭に任せる部分も作っていかないと、ますます家庭の教育力が落ちてしまいます。大量の宿題で夏休みの子どもたちを学校が遠隔操作しようとするこれまでのあり方は見直される時期にきていると思います。

私が考える理想は、7月の下旬に新聞に各団体の作品応募が一覧になって紹介されることです。詳細はQRコードでサイトに移動できるようにすれば、スペースも少なくてすみます。参加賞を工夫すればたくさんの応募があるでしょう。新聞を開いて親子でどれに応募するか考える姿が期待できます。

さて、これをお読みの方で、ご自分のかかわる学校で「作品応募はしていない」「やっているけどこんなふうに改善した」という例がありましたらぜひお知らせください。また、夏休みの宿題の状況も教えていただけるとありがたいです。都会の方では、夏休みの宿題も減っているということも聞きます。そのような情報を学校に周知することが、学校の働き方改革をすすめる「追い風」「勇気」「推進力」になります。よろしくお願いいたします。