学校の働き方改革「10の提言と50の具体策」

持続可能な学校をつくるための具体的な提案

【提言5】教員の業務内容を明確に

中教審「答申素案」の第4章では「学校及び教師が担う業務の明確化・適正化」について述べられています。わずか1文ですが、今後ここはしっかり押さえていかなければいけないと思います。

・学校・教師が担うべき業務の範囲について、学校現場や地域,保護者等の間における共有のため、学校管理規則のモデル(学校や教師・事務職員等の標準職務の明確化)を周知。

さらに、最終ページの「パッケージ工程表」の中に、「学校管理規則のモデル→学校管理規則の検討→規則改正→役割分担の見直し」が2020年4月までに行われることが組み込まれています。

学校管理規則は、各県・市町村・政令市等の教育委員会で作成されています。インターネットで各自治体の学校管理規則は簡単に見ることができます。これらの項目や順番は自治体ごとにまちまちですが、概ね「各学校の職員」「服務」「学校施設」「勤務時間・休暇」「服務」「学校運営」「学校評価」等に関することが記載されています。

例えば学校施設については「校長は、学校施設及び設備を管理し、その整備に努めなければならない。校長は、職員に前項の服務の一部を分掌させることができる。」(下線は筆者)などという文言が入っている場合があります。これによって教職員は学校施設の整備(ワックスがけ、プール掃除等)や備品の管理(備品台帳の点検等)まで手がけることになっています。もっとも、下線部がない場合も教職員がやっている場合がほとんどです。

そもそも学校教育法37条では「教諭は、児童の教育をつかさどる。」と示されているのですから、学校施設の管理は守備範囲外です。今後、この「学校管理規則のモデル」が学校や教員・事務職員の業務をどのように位置づけるか注視しなければなりません。特に教員の業務をどのように規定するかが学校の働き方改革の要になると思います。私は次ように考えます。

《教員の業務》

・ 学習指導要領等を基準として編成された教育課程に基づく学習指導

・ 児童生徒の人格の形成を助けるために必要不可欠な生徒指導・進路指導

・ 保護者・地域等と連携を進めながら,これら教育課程の実施や生徒指導の実施に必要な学級経営や学校運営業務

この3点は答申素案で「学校の業務」として位置づけられたものです。学校管理規則にはこれを明示し、行政は保護者や地域にこれからの学校のあり方を周知していく必要があります。

《教員の業務ではないもの》

・登下校に関する対応

給食費の徴収・会計・督促・返金等

・放課後から夜間の見回り、児童生徒が補導された時の対応

・地域ボランティアとの連絡調整

中教審の議論の流れでは、少なくともこの4点は学校の業務から切り離す方向で考える必要があります。できれば、これらの責任者を学校管理規則の中に明記してほしいです。さらに

・学校施設・設備の管理

これも、教員から切り離すべきと考えます。例えば、学校の統廃合で大がかりな引っ越し作業が発生し、教員が休日返上で負担している例もあります。財政に苦しむ行政にとっては、時間外勤務手当を支払わずに統廃合事業を進められるので非常に都合がよいですが、こういう姿勢が「学校の持続可能性」を危機的にしている原因であることをもっと認識すべきです。

《位置づけが曖昧なもの》

教員の業務は「学習指導、生徒指導、進路指導、学級経営、学校経営」だと定められたとしても、それ以外にも数多の「グレー」な業務があります。【提言3】で示したように、「グレー」がブラック化を進めてきたと考えると、一つ一つに役割の明確化が必要になっていくでしょう。いくつかの例を示します。

△児童生徒の安全に関する業務

学校保健安全法では、自然災害や不審者の侵入に伴う児童生徒の安全確保は教員の役割であると示されています。初期対応についてはどうしても教職員の業務になるでしょう。しかし、速やかに自治体に引き継ぐのが望ましいと考えます。富山県では警察の拳銃を奪った男が学校に向かって発砲する事件がありました。学校ができる対応の限界を超えています。「大川小津波訴訟」の例もそうですが、預かった命に対してそれを守る体制が十分でありません。例えば、不審者は警察に、避難は消防に速やかに対応と責任を引き継ぐシステムを構築することを望みます。

不登校への対応

不登校への対応は学校の業務とならざるを得ないでしょう。しかし、不登校の原因が例えば保護者のネグレクトにあった場合、担任が保護者の支援に踏み込まざるを得ないケースもあります。例えば、担任が朝、子どもを家庭まで自家用車で迎えに行くような対応が生じまることがあります。事故があった時のことを考えると不適切であることは明らかですが、「ここで子どもに休み癖がついてしまったら・・・」と考えると手を差し伸べないわけにはいきません。では、それを誰がやるのか。難しい問題です。

△施錠点検

学校の戸締りは、多くの学校では教職員が当番を作り行なっているようです。管理職がすべて行なっているという例も聞きます。教員の業務を「学習指導、生徒指導、進路指導、学級経営、学校経営」とするのであれば、施錠点検は教員には命じられません。管理職が行うか、管理者である教育委員会の職員が毎日学校に来て、行うということになると思います。行政が何らかの対策、予算措置をすべきと考えます。

△備品管理

学校には大量の備品があります。教室のCDプレーヤー、児童生徒用の机・椅子、理科の実験器具、図書室の本・・・。一つ一つに台帳があり、定期的な点検があります。基本的に事務職員の仕事となるようですが、夏休みなどに教員が教科ごと、種類ごとや分類ごとのチームを作り、所在や使用可否を調べるケースが多いようです。教員でないと分からない教材や教員でも分からない教材も多く、事務職員や教育委員会の職員だけでは手に余る事態も予想されます。

△地域行事への参加・引率、作品募集の周知、とりまとめ等

これらはそもそも教員の業務ではないです。答申素案には、文部科学省が「全国的な各種業界団体等に対して」「学校に頼らない方法で児童・生徒に周知することなどを要請する」と示されていますが、おそらく学校管理規則にはそこまで明示されることはないでしょう。果たして学校に頼らないやり方がどこまで浸透するのでしょう。浸透するまでは相変わらず教員が請け負うことになるのでしょうか。

パッと思いつくだけでもこれだけの判断困難案件があります。これまでの慣習がある中での役割分担の再構築は至難の技ですが、ここで「従来どおり」となると教育に未来はありません。2019年4月から各教育委員会で始まる学校管理規則の改正作業の中で教員の業務内容を明確にできるかできないかは今後の学校の働き方改革の生命線になると私は考えます。

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