学校の働き方改革「10の提言と50の具体策」

持続可能な学校をつくるための具体的な提案

【ポストコロナの学校改革12】授業革命が起こる

 
ポストコロナの学校は授業が劇的に変わります。その変化は学校制度そのものを覆すほど強烈なものです。
それはタブレットのもつ2つの機能によるものです。それは「個別指導機能」「リモート対話機能」です。
6年生の算数の問題を使って説明してみます。
 
直径が6cm、高さが10cmの円柱形のボトルには何mLのシャンプーが入りますか。
 
3×3×3.14=28.26(底面積)
28.26×10=282.6(体積:cm3
1mL=1cm3
答え 282.6mL
 
円柱の体積の問題です。
体積の公式を活用し、単位変換を伴うため6年生にとってはそんなに簡単な問題ではありません。
一般的な授業では、子どもたちが一斉に問題を解き、誰かが発表して、答えを確認します。
間違えた子は、正解を写して、やり方を確認し、別の問題で改めてできるかどうかを確認します。次も間違えると、理解できていないということで個別の指導を受けたりします。
逆に早い子は、問題を解いてから他の子ができるまで待ち時間があります。それを埋めるために、分からない子に教える先生役になったりもします。
一斉授業は学びのスピードをある程度一定にする必要があります。それはまるで「40人41脚」のようです。早い子を遅くし、遅い子をがんばらせ、横並びにします。自分は走りたくなくても両側の子が動けば足を出さずにいられないことも、同調圧力に縛られた教室に似ています。
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さてこれに対して痛烈な事実を突きつけた事例があります。工藤勇一前校長の麹町中学校です。数学の授業にAI型タブレット教材「キュビナ」を導入しました。「キュビナ」はタブレットで問題を出し、生徒の間違いを分析し、遡って復習問題を出します。子どもたちは個別に先生がついているような(むしろ人間の先生より上手に指導してもらえる)状態で学習を進めていきます。同じ教室にいても、ペースは完全に一人一人違います。すると、年間140時間のカリキュラムを早い子は40時間、遅い子でも70時間程度で終わらせることができたと言います。
今まで、40人41脚で全員横並びにすすめていたものを、足を結ぶひもを外したら、遅い子も2倍早く走れるようになったというわけです。
これがタブレットが示す可能性の一つ。AIによる「個別指導機能」です。
言い換えれば一斉授業からの解放ですから、学校教育の歴史を変える大事件です。
これは特に知識・技能を高める分野で広範囲にわたって活躍しそうです。
 
これによって、先ほどの円柱の体積の問題などは2倍の速さで習得できようになるということです。
こうなると余った時間で、これまで課題になっていた「思考力」を高める学習に十分取り組むことが可能になります。例えば次のような問題は子どもたちの思考力を引き出すとされてきました。
 
直径が6cm、高さが10cmの円柱形のシャンプーボトルに入れる、シャンプーの詰め替えパックを買いにいきます。ボトルにできるだけたくさん入り、パックにシャンプーが余らないのは次のどれですか。
A 200ml
B 300ml
C 400ml
 

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282.6mL入る容器なので、Bだとあふれてしまい答えはAになります。若干の思考は必要になります。ただ、次に同様の問題を解く時は思考力というより、技能的な力で解決できます。
むしろ、このような問題が出た時に、「Bでも無理すればボトルに入るんじゃない」というような発想を引き出したいところです。
そこで、この問題を次のように変えるとどうでしょう。
 
直径が6cm、高さが10cmの円柱形のボトルのシャンプーを使い切ったため、詰め替え用のパックを買いにいきます。あなたはどれを買いますか。
A 200mL 500円
B 300mL 600円
C 400mL 700円
詰め替え用パックはビニールを切るとふたができません。
 
この問題には「正解」がありません。
自分なりに答えを出すだけでも思考力を使いますが、他の人と意見を交換し合うことで、考え方の幅が広がることが期待できます。
例えば教室の座席で4人のグループを作り話し合わせたらどんな会話が生まれるでしょう。
 
「私はAにする。B、Cは余るから」
「ぼくはBにする。お風呂で詰め替えて、余った分はすぐに使う。」
「Cにする。Cは一番お得。Aを2個買ったらCと同じ400mlだけど1000円になってしまうよ。」
「でも余った分はどうするの?どこかに置いておいたらダラダラ漏れてきたり、置いてあることを忘れてしまって結局ムダになるかもしれないよ。」
「余った分は別のケースに入れて『シャンプー』って書いて目につくところに置いておけばいいよ」
 
うまく行けばこのように、いろいろなやりとりが生まれることが期待できます。
さらに値段や容量を少し変えてみたり、シャンプーを醤油にして賞味期限の要素を入れたりすれば、子どもたちの思考は働き続けます。「先生ならどれを選ぶでしょう」などと問いかけると、「先生は忘れっぽいのでCはダメだ」「いや先生はケチなのでCに決まっている」などと性格の要素も入って楽しいかもしれません。
 
この子ども同士の意見のやりとりは、教室では座席位置を利用した数人のグループで向かい合ってすることがほとんどです。
しかし、もしこれをオンラインで行ったとすると劇的な変化が起こります
それぞれの子が自宅にいても、学校でも、県外でも国外でも一瞬にグループができます。Zoom等による遠隔会議を体験された方ならお分かりと思いますが、グループ替えも一瞬です。いろいろな考えに触れることで学びが生まれやすくなります。
今後AIがここに入れば、「同じ意見をもつ子ども同士で」「違う意見をもつ子がグループに入るように」「なかなか意見が言えない子が話しやすいグループに入るように」などさまざまな配慮も可能になります。
これがタブレットで生まれる「リモート対話機能」です。

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しかもこのような授業は40人以上でも可能です。いやむしろ人数が多ければ多いほど多様なマッチングが可能になり、子どもから力を引き出す可能性が上がります。

タブレットを介すれば、言葉だけでなく文字でやりとりしたり、音声を文字にして表したりすることも可能なので、視覚や聴覚に障害をもった子との交流も垣根が低くなります。
 
「個別指導機能」で生み出した時間で「リモート対話機能」を使って思考力を育む。これは、これからの時代に求められる付加価値を生み出す力を育むことにかなり寄与しそうです。
 しかし、同時にこれは、子どもたちが学校に行く必要性を薄めていく可能性も秘めています。そもそも学校は、富国強兵のために、地域の子どもたちを一か所に集めて勉強を教えるという制度です。制度そのものに無理があります。無理があるために、様々な問題が生じ、時にはいじめのように命にかかわる問題まで発生します。集まらなくても学べるのであれば、それもよいはずです。このように言うと、
「いや、学校には学校でしか育てられない力があるはずだ」
と誰もが思うと思います。
それは何でしょう?
今、私は学校で対面でしか学べないものを次々に思い浮かべているのですが、どれも、次の瞬間には消去されていきます。
むしろ、現在のように競争や同調圧力、ブラック校則などで子どもたちを統制しなければいけない学校では、失うものの方が多いのではないかとさえ思います。
 
おそらく今後、学校不要論教員不要論が出てきます。AIの方が教えるのがうまくて、対話はリモートでできるのであれば、優れた塾の方が子どもの力を上手に引き出す可能性があるからです。社会性はボランティア活動や地域スポーツなどのリアルな社会参加で育めるでしょう。学校で何から何まで揃えて与えるより、子どもたちが自分で選んで参加する方が健全だと思います。そうなると学校でしかできないものとは何か。それこそ、給食や部活動やトラブルの仲裁や思い出づくりしか残らないのであれば、教員につける予算は半分でいいと言われるでしょう。
教員こそ、自らの付加価値を生み出さなければいけません。
私は、そのためのキーワードになるのが、「幸せ」という最上位目標だと思います。今の学校は必ずしも「幸せな社会の構築」に向かっているとは言えないからです。今こそ、学校の役割を再構築していく時ではないでしょうか。
(シャンプーの導入問題から、ずいぶん飛躍した着地になりました。皆さんのご意見をお聞かせいただければ嬉しいです。)
 

【ポストコロナの学校改革①】学校制度のボトルネック

 

【ポストコロナの学校改革②】平成30年間の学校教育の変質

 

【ポストコロナの学校改革③】学校が抱えた保護者の監督責任

 

【ポストコロナの学校改革④】いじめを防げない学校のボトルネック

 

【ポストコロナの学校改革⑤】学校の働き方改革と子どもの学びの両立を

 

【ポストコロナの学校改革⑥】未来に生きる力を育てる

 

【ポストコロナの学校改革⑦】「自ら学ぶ子ども」をどうやって育てるのか 

 

【ポストコロナの学校改革⑧】脱「日本型学校教育」〜教員の本来業務に集中できる環境を〜

 

【ポストコロナの学校改革⑨】学校は何を教えるところか

 

【ポストコロナの学校改革⑩】幸せをもたらす教育施策

 

【ポストコロナの学校改革11】部活動改革への提言