学校の働き方改革「10の提言と50の具体策」

持続可能な学校をつくるための具体的な提案

【具体策10】「自転車教室」は地域・保護者が行う

以前、東京の小学校の先生と話をしていて驚いたことがあります。(私は富山県の教員です。)
私が「うちの地域は小学校で自転車の交通安全教室ってやるんですよ」と言うと、その方は「それ東京でもやってますよ」と言われました。
詳しい話を聞くと、細部まで共通していました。
・小学校3年生を対象に
・グラウンドに道路に見立てたラインを引いてコースを作り
・警察も来て
・一旦停止、左右確認等の安全な走行の練習をする
・子どもたちは「自転車教室」を受けるまでは、自転車の路上走行は禁止。(保護者の同伴であればよい)
さらに、作ったコースに対して人数が多すぎグラウンドは大渋滞というところまで一致していました。
唯一違っていたのは、自転車に乗れない子が、うちの地区が1〜3%程度なのに対して、東京では30%くらいであるというところでした。

東京と富山でここまで共通ということは全国的に相当な数の学校で同様の行事が行われていることが予想されます。

ちなみにこれにかかる教師の労力は相当なものがあります。

・指導計画の作成
・警察と日程・指導内容の打ち合わせ

・自転車販売店(点検をしてもらう)との日程調整
・子どもたちに自転車を持って来させるための保護者への連絡(事前に親が持ってくる場合、当日子どもが持ってくる場合、当日雨の時の連絡方法等)
・自転車を置く場所の確保と並べ方の指導
・実施日のグラウンド確保とコース作成

さらに路上での練習を行う場合は
・路上コースの下見、コースの決定
・PTAへの協力依頼
・職員の役割分担(何時から何時まではA先生だけど、何時からはB先生などの調整が必要)
などの業務が発生します。警察とPTAの接待なども必要で、どこで待ってもらうか、誰がお茶を出すかなど、細部まで担当者を決め、当日に備えなければいけません。当日雨になろうものなら、警察、自転車屋、PTAとの日程調整もやり直しになります。

私の場合は、自転車教室のための事前練習までも行いました。なぜなら「ペダルを45度まで持ち上げ、踏んでスタートする」「ブレーキを握って止まる」というところからできていない子が多数いるからです。ふらつきがひどい子もいます。乗れない子の中には自分は乗れると思い込んでいる子もいます。多くの人がかかわる行事での混乱は避けたいです。
事前練習のためには数日、自転車を学校で預かることになります。夜、盗まれたら?という心配も出てきます。「今日、一旦持ち帰ります」という保護者の申し出にも対応しなければいけませんでした。

また保護者から「こんな行事があるとは知らず、自転車を慌てて買いに行った。気に入った商品がなかったが、仕方なく買った」と後から苦情が出たこともあります。

さて、この行事を「やればよい」のは理解できます。「子どものため」「命にかかわること」というのも分かります。しかし「やればよいこと」をすべてやっていたら学校はパンクします。どこかで線引きが必要です。

私の考えでは、自転車教室は学校がやるべきことではありません

理由は「学習指導要領にない」からです。これらの持ち込み行事を行うことで、学習指導要領で定められた正規の授業が食われてしまっている実態があるからです。
さらに、学校が抱えきれないリスクも背負っています。もし、この交通安全教室を終え、学校に「認定」された子が事故にあったら、そして保護者に「事故にあったのは学校がきちんと指導せずに認定させたからだ」と追及されたらどうするのでしょう?
本来は親や地域がやるべきことを学校が先回りしてやってしまうことによって親や地域の教育力が落ちることも問題です。

代案を示します。

《代案1》学校での自転車教室は行わず、保護者が責任をもって子どもへの指導を行う。警察から自転車の路上走行のルール、マナーについてのリーフレットを配布し、保護者がそれを元に子どもへの十分な指導を行う。

《代案2》PTAと警察が合同で、もしくは警察単独で、土日などに自転車教室を行い、それに親子で参加し「認定証」をもらうことで、路上走行許可の目安とする。

(個人的には、路上での自転車の使用については各自治体が条例等である程度の規制をした方がよいと思います。)

さて、自転車教室は一つの例でしかありません。学校はしなくてもよい多くのことをサービスとして行い、それによって生じる責任も抱え(それゆえ綿密な計画による実施が余儀なくされ)、地域の教育力を低下させ(それゆえ面倒なことはどんどん押しつけられ)ています。

昨今「学校は多忙で大変だ」ということがかつてないほど世間に周知されています。これを見直すのは「今」しかないと思います。学校の働き方改革の風が吹いているうちに、教育委員会や各学校の校長先生が、警察、PTAと懇談の場をもつことでしか見直しは始まりません。そして、もしもうまくいけば「警察が見直した」という事実が、「私の組織も見直すべきか?」という連鎖を呼びます。

もしも、すでに学校から切り離したという事例がありましたら、ぜひ、お知らせください。このような改革こそ、横に広げるべきです。

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