学校の働き方改革「10の提言と50の具体策」

持続可能な学校をつくるための具体的な提案

【具体策8】通知表を年1回にする

私が校務の中で、最も負担が大きいと感じるのが「通知表」です。「評価がなくて教えっぱなしならどんなに楽か」と何度思ったか分かりません。

通知表は公簿ではありませんから、出すも出さないも校長の任意です。もっと言えば、通知表に何を書いて何を書かないかも校長の任意です。所見なしでもかまいません。各学期の終わりに出さなければいけないという規定ももちろんありません。例えば2学期制だから2回とか、3学期制だから3回ということもありません。3学期制で2回でもよいです。

通知表の問題は「コスト」と「リスク」のダブルの負荷があることです。

まず、「コスト」の話をします。通知表の目的は、子どもたちの成長を保護者に伝えることですが、それを「通知表」という型に押しこめるところに大変なコストがかかります。通知表ではなくもっと効率的な方法で、子どもたちの成長を伝えられればその方がよいです。

通知表を年1回にすると、子どもたちの学びの進捗をどのように伝えればいいのでしょう。私は、懇談会で伝えればいいと思います。通知表の評価のソースは、主にテスト、プリント、ノート、作品、発言や行動、アンケート(自己評価)などです。これらのソースを数値化して、最後に「1・2・3」「A・B・C」などの記号に変えます。そのままであれば分かりやすいものを見えにくくしています。手間と時間のコストが異常に高いのに、出力されたもののパフォーマンスが低い。特に3段階評価の「2」「B」は幅が大きく、その子の力を的確に伝える力をほぼもちません。だったら、もともとの豊富なソースをそのまま保護者に伝えた方がよほど伝わります。つまり懇談会で、「テストの点数はこうでした」「ノート(現物)はこのような状態です」「この絵(現物)にはこんなふうにとりくんでいました。」と伝えれば保護者もよほど子どもの成長も課題も分かります。親が気になるのは、実は「自分の子どもがクラスの中でどんな位置にいるか」(相対評価)かもしれませんが、学校が行う評価は絶対評価ですから、ありのままを伝えれば説明責任は果たされます。

次に「リスク」の話をします。学校が多忙なのはいろいろな取り組みを安易に取り入れすぎたということに尽きますが、取り組みを増やすと、リスクも増えているということに気づいている人は少ないです。例えば、子どもたちの体力を向上させようと、ランニングの時間を取り入れると、子どもが怪我をするリスクが増えます。心臓発作のリスクも抱えます。また例えば、日記を書かせると、担任は朱書きを書かなければいけません。休み時間に子どもたちの様子を見る時間が減ります。子ども同士のトラブルが発生するリスクが高まります。保護者から「子どもが習った漢字を使うように指導してください」などとクレームが来るリスクも増えます。

ちょっと遠回りになりましたが、通知表は「客観性」「公平性」という意味で、保護者の期待が高く、それに伴うリスクも非常に高いです。保護者から「なぜうちの子の国語の成績が2なのか?」と聞かれた時のために、説明できるための資料をしっかり残さなければいけません。それが20年に1回のことであっても、毎学期毎学期資料を準備します。もしも、保護者の追及に答えられなかったら、学校の信用は失墜します。その高いリスクに備えるために莫大なコストが発生しています。評価基準、補助簿などを準備し、評定・所見を学年主任、教務、管理職がチェックする必要が生じます。そもそも学校には通知表のリスクを管理するだけの力(人的・時間的余裕)はないと思います。実力以上のことをするから大変なのです。

もしも日本の義務教育に、成績不良による原級留置(落第・留年)があるのであれば、私は「各学期に出すことも止むを得ず」という考えをもつかもしれません。3学期の最後に、いきなり落第宣告は厳しいです。しかし、原級留置は制度上は可能ですが、現実問題としてはありえません。また、通知表を年1回にして問題があるとすれば、高校入試の際に、評定の提出を求められる場合があり、それを通知表の評定で代替してる場合があるということです。これについては、高校入試の制度の方で中学校に負荷をかけない改善をすべきでしょう。

ところで、通知表は公簿ではありませんが、指導要録は公簿です。教科・特別活動等の評定、学習・行動・特別活動・総合的な学習の時間・道徳・外国語活動の所見を記録として残さなければいけません。私は、年度末にこれら指導要録の記録をそのまま通知表として、伝えればいいと思います。開示請求される前に、こちらから公開しているのですから、透明性も申し分ありません。

私が文部科学省の教員勤務実態調査(2017)を分析した結果では、通知表を年に1回にすることによって月当たりの時間外勤務時間を6〜7時間縮減できます学期末には20時間以上の削減が期待できます。リスクの低下による、心理的な負担の軽減もかなりのものになります。しかも、各学期の懇談会で、担任は保護者に伝える情報が豊富にあり、保護者も子どもの様子がよく分かるというWIN-WIN-WIN-WINの具体策と思いますが、いかがでしょう。

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