学校の働き方改革「10の提言と50の具体策」

持続可能な学校をつくるための具体的な提案

【具体策6】運動会を半日に

運動会を半日にする学校が増えているそうです。

2018.6.5日経新聞『「午前中だけ運動会」広がる 共働き家庭に配慮』

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO31369120V00C18A6CC0000/

この記事をまとめると次のようになります。

・運動会の短縮は保護者負担の軽減という目的で始まっている。(保護者の要望をもとに行われている)

・新学習指導要領による増加への対応にもなっている。

・子どもの意見は反映されていない。(残念がる子どももいる。)

さて、運動会が学校に与える負担は非常に大きいです。

当日のコマ数が6、事前の全体練習・予行練習にかかるコマ数が6程度

ある学校の6年生の教室ではこれ以外に競技の練習や応援の練習に23コマが使われていました。合わせて35コマは1年間の道徳の時間に匹敵します。

これだけの大行事ですから、教員が行う事前の準備も大変です。

・すべての種目のルールと整列順と入退場の方法と放送内容を決め、必要な道具を揃える

・ダンスを行う場合は曲の選定のみならず、振付さえ教員が創作する場合もある

・応援団のメンバーの選定(希望者が多くても少なくても非常に苦労する)

・応援合戦に勝敗がある場合はその判定方法や公平な練習時間などを決定する

・開会式、閉会式の次第を決める

・教員の担当者、児童・生徒の役割分担を決める

・グラウンドの配置やラインを決める

・万国旗、テントなど、用具の点検を行う

ざっと思いつくだけでもこれだけあります。

そもそもこんなに大掛かりなことをしないと、運動会のねらいは達成できないのでしょうか。学習指導要領の「健康安全・体育的行事」の目標を見てみましょう。

心身の健全な発達や健康の保持増進などについての理解を深め,安全な行動や規律ある集団行動の体得,運動に親しむ態度の育成,責任感や連帯感の涵養,体力の向上などに資するような活動を行うこと。

例えば「連帯感」という言葉があります。これは赤組と白組に分けただけでも感じることは十分可能です。応援団を作って声を合わせればもっと感じられます。応援合戦という形で勝敗をつければ、さらに強い連帯感が生まれます。どの方法を選択したとしても間違いではありません。

「連帯感」以外にも「安全な行動」「規律ある集団行動」「運動に親しむ態度」「責任感」「体力の向上」も全て100%向上させたいというのなら35コマが必要になるかもしれませんが、その結果、授業が削られ、授業の準備が削られ、教員の時間外勤務時間が増大しているなら改めるべきでしょう。

例えば冒頭の記事にもあったように、入場行進を行わないことによって、当時の時間だけでなく練習の時間も削減できたという例があります。数百人が集まる練習は、集合だけでも多大な時間コストを支払わなければいけません。私は全体練習は1回で終わらせられるような運動会にするべきだと思います。

削減案をいくつか提示します。(主に小学校を中心に考えていますが、中学校でも参考にしていただけると思います。)

・種目数を減らす。半日でできる種目数に(種目が多ければねらいが達成できるというものではない)

・開閉会式の簡素化(整列をせず自席で挨拶を聞く、歌は最小限にするなどの工夫をすることで、練習時間も大幅に削減できる)

・応援に勝敗をつけない(そもそも応援は勝負するものではない、不要な過熱化を防ぐ)

・代表者によるリレーなどの選手種目の廃止(足の速い子は徒競走で十分力を発揮できる、選手選定や一部の子を取り出す練習の負担が非常に大きい)

・全体の勝敗をつけない(得点の計算が非常に煩雑、勝敗の喜びや悔しさは個々の種目の中で十分味わえる、表彰にかかわる準備や練習が削減できる)

・準備体操は種目に入れず、席の後ろなどのスペースで行う。(大きな学校では体操の隊形になる練習だけでも1コマを要する場合がある)

・種目の固定化(玉入れ・綱引き・台風の目などの定番種目を決め学年も固定する)

・小学校低学年で行われるダンスの曲や振付は毎年固定化する。(練習では例えば2年生が1年生に教えることで子どもも育つし指導の負担も減る)

・徒競走でタイムを計測している場合はやめる。(時間がかかる、リスクも増える)

鼓笛隊をやめる。(行なっていない学校も多い。行なっている学校は保護者や地域からの要望が強くやめづらい実態があるようだが、負担が大きすぎることを理解してもらう)

万国旗を飾らない(脚立に乗ってくくりつけるなど危険が伴う、すでに存在しない国旗もあり教育的に問題)

運動会を多忙にしている理由の一つが「勝敗」です。私は勝敗を否定している訳ではありませんが、体育的行事のねらいに則して考えれば最小限でかまわないと思います。勝敗があると盛り上がりますが、盛り上がった心情が引き起こすリスクも増えます。運動会終了後、保護者が「うちの子の100m走は新記録ではないですか?」とビデオの記録をもってきた場合どのように対応すればよいでしょう。運動会の最後の種目の選手リレーでゾーンを越えてバトンのパスが行われてしまったらどのように判定すればよいでしょう。それがもし全体の勝敗を左右するものであったら、どちらに転んでも遺恨が残ります。また、未熟な子どもたちは応援合戦の判定を「インチキだ」と簡単に言いますし、それがもとで子ども同士のトラブルが発生することもあります。現在行われている運動会のあり方は、時間や手間のコスト、受けるリスクの両方で、学校のスペックを超えていると思います。

今回の「運動会を半日に」という提案は、単に時間を短くという意味だけではなく、学校のもてる「枠」に行事を当てはめていくという考え方の提案でもあります。高学年の英語が始まる2020年までに、運動会の準備にかかる時間を10時間減らすくらいの具体的な目標が必要ではないでしょうか。

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