学校の働き方改革「10の提言と50の具体策」

持続可能な学校をつくるための具体的な提案

【具体策5】卒業式にかかる時間を適正化する

3学期に入ると、職員会議で卒業式の起案が始まると思います。特に小学校では、卒業式に過剰な重みづけをしがちで、多忙の根源が潜んでいると感じます。

学校にもよって実態は違うでしょうが、まず私が捉える卒業式の問題点をまとめます。

・練習時間が長い。特に在校生にとっては長時間、姿勢よく座ることが求められ「苦行」になっている。授業時間が削減されるだけでなく、インフルエンザを全校に広げる機会にもなっている。

・演出(?)の一つに「呼びかけ」があるが、セリフの作成から、児童の分担(場合によってはオーディションが必要)、練習などに多大な時間がかかっている。特に1人に1つのセリフを当てる場合、人数が多い学校では、練習の長時間化、式自体の長時間化が起こる。声の出ない子の練習・指導は、子どもも教員も心労が大きい

・合唱では、担当者や音楽に詳しい教員がOKを出すまで全校で繰り返し練習が行われる。また、ピアノ伴奏を子どもがする場合、演奏者の選定(オーディション)にも相当な公正・公平さが求められる。逆に子どもにも教員にも適任者がいない場合も「CDはNG」の原則が守られ、選出された子どもや教員に多大な練習が強いられる。

・BGM、壁面、掲示板の飾りつけ等の演出が過剰になりがちで、準備にかかる労力や時間が多大になる。

実際にどれくらいのコマ数を使っているかというと、卒業式自体に1.5〜2コマ、事前の練習に2コマ〜10数コマ。「10数コマ」というのは、「3月に入って毎日のように1コマ、全校での練習がある」という声をもとに推定しました。中には授業コマを使わずに1時限目の前や2時限目と3時限目の間の長い休憩時間を、練習時間に充てている学校もあります。たとえ練習時間が5コマだったとしても、6年間で30コマです。1年間の道徳の授業が35コマですから、卒業式の練習でほぼ座っている30コマは子どものために有効と言えるでしょうか?

そもそも卒業式は何をねらいとしているのでしょう?法的には次のようにあります。

学校教育法施行規則 第58条 校長は、小学校の全課程を修了したと認めた者には、卒業証書を授与しなければならない。

ここにある「授与」は卒業式の中で行う必要はないし、直接手交しなければならないという規定もありません。ちなみに、「卒業式」ではなく「卒業証書授与式」と呼ぶ学校もあります。むしろ、法的には学習指導要領の中に位置づけられます。

特別活動[学校行事](1)儀式的行事   学校生活に有意義な変化や折り目を付け,厳粛で清新な気分を味わい,新しい生活の展開への動機付けとなるような活動を行うこと。 

「卒業式」は卒業生にとって中学校へと進学する動機付け、1〜5年生にとっては6年生にお世話になった感謝の気持ちをもつと共に自分たちが進級し受け継いでいくという動機付けになるでしょう。しかし、卒業式が学習発表会のような「文化的行事」になってしまい、子どもたちがうんざりするような練習が重ねられると、本来の動機付けという目標にブレーキがかかってしまいます。中には「大事な式で子どもたちが失敗して恥をかくようなことはあってはならない」と言う方もおられるかもしれません。だったら、ハードルそのものを低く設定すればいいことです。

また、壁面や掲示板の飾りつけは、教員の放課後の作業を増やし、学期末の成績処理や教材研究の時間を圧迫します。時として、在校生にも作成の依頼が来て、「6年生への感謝」という教育的価値のもと、授業をつぶして行うこともあります。さらに問題なのは、式に参列する行政や地域の関係者、保護者らに「いいところを見せたい」という大人の心理が働いてしまうことです。ある校長は、卒業生の退場の最期の1人が体育館を出たタイミングで、BGMが終わることを放送担当者に求めたそうです。こうして肥大化した卒業式を適正な在り方にしていく努力が必要です。

以上のことから、次の提案をします。

◯卒業式の全体練習は1コマ(実際の式のコマ数以下)とし、教職員が行う準備も勤務時間内にできる範囲にする。そのために(以下①〜⑤)

①卒業生の「呼びかけ」は最小限にする。一人一人に台詞を作らず、何人かのまとまりや全体で言う台詞のみとするなどの工夫をし、オーディションや練習にかかる時間を削減する。

②1〜5年生は呼びかけを行わないか、最小限の練習でできる範囲とする。または、卒業式への参加を5年生のみとする。

③壁面、掲示板の飾り付けは基本的に行わないか最小限にする。保護者からの希望がある場合は、保護者による飾り付けを行う。

④BGMは前年踏襲を確実に行う。

⑤合唱の曲数は練習時間から逆算してできる範囲とする。伴奏はピアノに固執せずCDも可とする。

今までの卒業式に比べて「さみしい」と思われるかもしれません。しかし、呼びかけのセリフや曲数が多ければ動機付けが高まるというわけではないでしょう。飾り付けも同様です。「進学・進級への動機付け」というねらいに対して、限られた時間をどう使うかを考えれば、力を入れるべき部分とそうでない部分が明らかになるはずです。一気に変えるのが難しければ、3年計画で少しずつ削減するのもよいでしょう。

もしかしたら、私の提案をすでに実現している学校、もっと優れた取り組みをしている学校もあると思います。もっと厳しい状態から抜け出せない実態もあるかもしれません。情報やご意見をいただければありがたいです。

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