学校の働き方改革「10の提言と50の具体策」

持続可能な学校をつくるための具体的な提案

【コラム2】中教審「学校における働き方改革特別部会(第20回)」を傍聴して

12月6日、中教審「学校における働き方改革特別部会(第20回)」を傍聴しました。

結論から言えば、私たちの悲願であった給特法の廃止・抜本的な改正は「中長期的な課題」として見送られる結果となりました。痛恨の極みです。答申素案への批判をここに書き連ねるならいくらでも書けますが、それはマスコミ等も扱っていますので、私は今回示されたものを最大限に活かしながら学校の働き方改革を進めるための意見を述べます。

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《参考URL》

http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/079/siryo/__icsFiles/afieldfile/2018/12/06/1411603_1.pdf

 

1.何のための「学校の働き方改革」であるかが示された

答申素案の中では、第1章に「学校における働き方改革の目的」(P3〜8)が示されています。今後、改革を進めるにあたっては必ず「反作用」が生じます。例えば「子どものためにそれはどうか?」という反論です。これについては答申素案が明確な方向性を示しています。

・「ブラック学校」といった印象的な言葉が独り歩きする中で、意欲と能力のある人材が教師を志さなくなり、我が国の学校教育の水準が低下することは子供たちにとっても我が国や社会にとってもあってはならない

・『子供のためであればどんな長時間勤務も良しとする』という働き方は、教師という職の崇高な使命感から生まれるものであるが、その中で教師が疲弊していくのであれば、それは『子供のため』にはならない

・学校における働き方改革の実現により、教師は『魅力ある仕事』であることが再認識され、これから教師を目指そうとする者が増加し、教師自身も誇りを持って働くことができることは、子供たちの教育の充実に不可欠であり、次代の我が国を創造することにほかならない。

(下線は筆者)

一言で言えば、学校の働き方改革未来の教育を守るために必要であるということです。これは、学校関係者だけでなく、地域や保護者にも共有していただきたい重要な方向性です。

 

2.「教師の過労死の根絶」を目指すことが明記された

これは富山の過労死事案にかかわってきた個人的な思いによるところもありますが、過労死の根絶を目指すという方針が書き込まれたことは、文部科学省に対する厳重な指導であると捉えます。

・子供のためと必死になって文字通り昼夜、休日を問わず教育活動に従事していた志ある教師が、適切な勤務時間管理がなされていなかった中で勤務の長時間化を止めることが誰もできず、ついに過労死等に至ってしまう事態は、本人はもとより、その遺族又は家族にとって計り知れない苦痛であるとともに、児童生徒や学校にとっても大きな損失である。

まさにその通りです。この最悪の事態を二度と起こさないという決意こそが改革を前進させると私は思っています。今回の部会でも委員から、もっと強調すべきという旨の発言があり、嬉しく思いました。

 

3.教師が担うべき業務の明確化を行うことが示された

第4章では「学校及び教師が担う業務の明確化・適正化」について述べられています。その中で、私が注目したのはP 29の次の文です。

・学校・教師が担うべき業務の範囲について、学校現場や地域,保護者等の間における共有のため、学校管理規則のモデル(学校や教師・事務職員等の標準職務の明確化)を周知。

これはいずれ本ブログでも【提言】として取り上げようと考えていましたが、学校管理規則によって教員の業務を明確化することが必要です。これまでの学校管理規則には例えば「校長は、学校施設及び設備を管理し、その整備に努めなければならない。校長は、職員に前項の服務の一部を分掌させることができる。」などという文言が入っています。これによって教員は学校施設の整備(例 ワックスがけ、プール掃除)まで手がけなければいけなくなっていました。そもそも学校教育法37条では「教諭は、児童の教育をつかさどる。」と示されているのですから、現在の「何でも屋」は適正とは言えません。今後、管理職が地域からの数多の依頼に歯止めをかける根拠にもなります。今後、このモデルの作成に注視しなければなりません。

 

4.具体的な縮減の目安が示された

P72の[別紙3]では「学校における働き方改革の諸施策の実施による在校等時間の縮減の目安」が示されました。本ブログの【コラム1】部活動指導員の効果「160時間削減」の意味は?でも示した通り、数値は非常に甘いと思いますが、このように具体的な数字を出して実行していくことが働き方改革の重要な指針となりますので、大きな進歩と受け止めます。私も本ブログの【具体策】で、具体的な数値を示しながらの削減案をこれからも示していきたいと思います。

 

5.工程表が示された

P74の[別紙4]では「学校における働き方改革に関する総合的な方策パッケージ工程表」が示されました。前述の「管理規則標準モデル案」が2019年の4月までに示され、同時に「学校給食費公会計化ガイドライン」も示されます。教育委員会はこれに従って改革を具体化していくことが求められます。これをしないということは、教育の未来を守る意思がないということで、強く非難されなければならないでしょう。また改善の進捗は毎年4月の「業務改善状況調査」によって把握され、公表されます。これは、今までにない改革の推進力になると思います。

 

6.校長ができる削減が具体的に示された

P30の脚注にかなり具体的な削減案が示されています。

例えば、夏休み期間の高温時のプール指導や、試合やコンクールに向けた勝利至上主義の下で早朝等勤務時間外に行う練習の指導、内発的な研究意欲がないにもかかわらず形式的に続けられる研究指定校としての業務、地域や保護者の期待に過度に応えることを重視した運動会等の過剰な準備、本来家庭が担うべき休日の地域行事への参加の取りまとめや引率等、学校としての伝統だからとして続いているが、生徒の学びや健全な発達の観点からは必ずしも適切とは言えない業務を大胆に見直し・削減してこそ、限られた時間を授業準備に充てることができ、一つ一つの授業の質が高められ、子供たちが次代を切り拓く力を真に育むことにつながると考えられる。

(下線は筆者)

ここに示された6つだけでも実施できれば、学校はかなり楽になります。私は学校現場で上のような内容を求めてきましたが、受け入れられることはありませんでした。上の脚注の続きには「このような判断ができる管理職が人事上評価されなければならない。」と書いてあります。これまでの管理職の価値観を180度転換させるほどの記述がされていることを広く知らしめていかなければいけないと思います。

 

7.各種団体が協力すべきことが具体的に示された

P 32には、行政や民間団体からの学校への依頼についてかなり踏み込んだ記述がされています。実は、同様のことが「中間まとめ」にも示されていたのですが、今ひとつ具体性に欠けた記述でした。今回はかなり具体的になっています。

関係省庁等からの特定のテーマに関する指導の実施依頼、研究機関や民間団体が実施する学校宛ての調査、作文・絵画コンクール等への出展依頼、家庭向けの配布依頼等、様々な主体から学校現場に業務が付加される現状を見直し、これらへの対応業務を軽 減する観点から、他省庁をはじめとした国の各機関や全国的な各種業界団体等に対して、調査や依頼等を精査したり簡素化したりすること、学校に直接連絡するのではな く教育委員会に連絡すること、ホームページやメールマガジンSNS 等を活用して学校に頼らずに子供たちに周知することなどを要請すること

特に下線部(筆者による)は、教育委員会に何度も要請してきましたが、全く進展しませんでした。今後も改善が望めないのであれば、例えば教職員組合から民間団体等に直接要請してもよい段階に来ていると思います。

 

8.月45時間、年間360時間の残業上限が示された

罰則なし、変形労働時間制導入は極めて遺憾ですが、まずは数値が示されたことは大きな成果と言えるでしょう。また、P18に

上限ガイドラインにおいては,「超勤 4項目」以外の時間外勤務も含めて「在校等時間」として外形的に把握し、民間や他の公務員に準じた時間外勤務の上限の目安時間を超えないようにすること

と書かれている通り、「在校時間=勤務時間」と認められることになります。(ただ、もしそれらの勤務が「命令される」性質のものだとすれば、部活動や地域行事への参加も命令となり「拒否できない」という危険があります。一方で、長時間労働が原因と考えられる公務災害認定申請は認定されやすくなると考えられますし、もしかしたら超勤裁判についても風向きがかなり変わるかもしれません。いずれにせよ、給特法と矛盾したこの設定は後々混乱を引き起こす可能性が大きいですし、今後の動きに注視しなければいけません。)

問題は、小学校で月80時間、中学校で100時間の時間外勤務時間がある現状から、月30時間、45時間への縮減はまさに「天文学的数字」だということです。2016年の教員勤務実態調査を分析すると、部活動で月当たり平日13時間40分、休日17時間12分、月合計30時間52分の勤務時間があることが分かります。中学校の時間外勤務時間は持ち帰りを含めなければ93時間12分ですから、部活動を全くやらないとしても62時間20分の時間外勤務となります。(計算はすべて筆者による)

実現は可能なのか?と疑いたくもなりますが、とにかく前進させるしかありません。本稿の最初にも示した通り、これを進めるしか教育の未来を守ることはできないからです。

 

本ブログが今後の学校改革に少しでも貢献できるように、今後も【提言】【具体策】を示していきます!ご意見やご感想をいただければ幸いです。